診療支援
診断

嗅覚障害
olfactory disorders
近藤 健二
(東京大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授)

嗅覚障害とは

定義

 嗅覚障害とは,五感の1つである嗅覚がなんらかの異常をきたし障害された状態である.感覚障害のなかでも視覚,聴覚障害と比較して軽視されがちであるが,食事や花の香りの賞味ができなくなる,腐敗臭やガス漏れが察知できなくなるなどの問題を通じて患者のQOLに大きく影響している.

患者の訴え方

 嗅覚障害は量的嗅覚障害と質的嗅覚障害に分かれる.量的嗅覚障害では患者は「においを感じにくい」(嗅覚低下),「まったくにおいを感じない」(嗅覚脱失)などと訴える.一方,質的嗅覚障害では「あるもののにおいを嗅いだときに本来のにおいと異なるにおいを感じる」(異嗅症),「ある特定のにおいを感じない」(嗅盲),「においが強く感じられて不快である」(嗅覚過敏)などの訴えがある.

患者が嗅覚障害を訴える頻度

 耳鼻咽喉科を受診する患者のなかで嗅覚障害を主訴とする割合は少なく,5%程度と考えられる.嗅覚障害は加齢とともに急激に有病率が上昇するため,実際には全国民の10〜20%が嗅覚低下症状を有していると考えられるが,嗅覚自体が意識に上りにくい感覚であるため医療機関への受診は多くない.しかし,COVID-19の症状として嗅覚障害が全世界的に大量に発生したことで,2020年以降は患者の受診が大きく増加している.

 嗅覚障害で受診する患者の主訴の90%以上は量的な嗅覚障害であり,質的嗅覚障害のみを主訴とする受診は稀である.異嗅症はウイルス性嗅覚障害や外傷性嗅覚障害の量的嗅覚障害に合併する.

症候から原因疾患へ

病態の考え方

 鼻腔に進入したにおい物質(嗅素)は気流に乗って鼻腔上方の中鼻甲介と鼻中隔との間の狭い空間(嗅裂)に到達する.嗅裂の最深部に嗅神経細胞を含む嗅粘膜が存在する.嗅神経細胞は双極性神経細胞であり,その樹状突起は粘膜を貫いて粘膜表面の粘液層のなかに露出している.樹状突起の先端からさらに嗅線毛が放射状に

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