診療支援
診断

喚語困難
50歳 男性
岩佐 憲一
(島根大学医学部附属病院脳神経内科)
長井 篤
(島根大学医学部内科学第三 教授)

現病歴:1週間前から微熱,倦怠感,食欲低下などがあったが出勤はできていた.受診当日の仕事が終わり帰宅後,話しぶりがおかしく,歩行もたどたどしい様子に気づいた家族に連れられて夜間救急外来を受診した.

既往歴:特記すべきことはない.

生活歴:22歳から企業勤務.喫煙歴なし.飲酒はビール350mLを週4回程度.

家族歴:特記すべきことはない.

身体所見:JCS(Japan Coma Scale) 2で日付の見当識障害を認める.体温37.8℃,血圧130/90mmHg,脈拍90回/分(整),呼吸数25回/分,SpO2 98%(room air).口腔内数か所にう歯と思われる歯牙の変色あり.両顎下リンパ節に軽度の腫脹・疼痛を認める.明らかな心音・呼吸音異常なし.腹部は平坦・軟,圧痛を認めない.

神経学的所見:明らかな顔面麻痺はないが,簡単な物品の名前などで喚語困難を認め,狐の手の形などをとらせると正常に行えない.右上肢Barré(バレー)徴候はわずかに回内し,歩行時に右下肢の挙上がわずかに低く,右にやや傾く.明らかな腱反射異常や感覚障害,失調は認めない.

【問題点の描出】

基礎疾患・家族歴のない50歳男性で診察上,軽度の言語症状(喚語困難)と右半身の神経巣症状を認めており,頭蓋内疾患を疑うが,1週間前から微熱・倦怠感がある.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・大動脈解離

・感染性心内膜炎

・多臓器塞栓

・悪性腫瘍〔Trousseau(トルソー)症候群〕

・敗血症

頻度の高い疾患

・動脈硬化性脳梗塞

・血管炎

・低血糖

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 明確な発症時刻は不明であるものの,当日も就労はできていた人が比較的発症から早いタイミングの急性の神経巣症状を伴い受診していること,なおかつ失語・失行など大脳皮質症状を伴った状況であることから,r-tPAあるいは血栓回収術などを念頭におい

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