診療支援
診断

左手足の脱力発作
71歳 女性
小林 祥泰
(小林病院 理事長)

現病歴:起床時から食事まではなんともなかった.朝食後に薬を見て左手で取ろうとして薬に触ったが,薬かどうかわからない感じがあった.感覚は正常.また左手でコップを持とうとして落とした.歩くのはなんとか歩けたが,なんとなくボーッとした感じで,ベッドに上がろうとしたが左足が上がりにくく夫に介助してもらった.会話はできた.休んでいたらこれらの症状は10分くらいですべて回復した.昼前にかかりつけ医を受診した.

既往歴:50代から高血圧,脂質異常症で加療.3年前に胸痛あり,狭心症疑いで冠動脈造影まで行うも異常なし.攣縮性狭心症と診断.

生活歴:30歳より夫の会社の役員として勤務.喫煙歴なし,飲酒はビール350mLを週4回程度.右利き.

家族歴:父親が高血圧.

身体所見:身長158cm,体重48kg,脈拍72回/分(整),左右差なし,血圧132/80mmHg.甲状腺腫なし.頸部血管雑音なし.胸部は心音,呼吸音正常.腹部は正常,浮腫なし.神経学的所見;会話正常,脳神経正常,失認,失行,半側空間無視なし,痛覚・触覚正常,腱反射,筋力正常,歩行正常.

【問題点の描出】

高血圧,脂質異常症で加療中の71歳女性.朝食後に起こった一過性の左上下肢脱力,皮質感覚異常(触覚失認),ごく軽度の意識障害.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・脳梗塞,一過性脳虚血発作(TIA)

・脳出血

・もやもや病

・脳腫瘍,血管奇形などによるてんかん

頻度の高い疾患

・一過性脳虚血発作(TIA),脳梗塞

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 運動麻痺などの神経症状が突発した患者に対してはまず脳血管障害を考える.本例では麻痺は軽いが,左手で薬に触っても何かわからなかったということで触覚失認が疑われる.〈p〉触覚失認は頭頂葉皮質病変による症状であり,病変が内包周辺だけでなく皮質にもあることを示している.高血圧性脳出血は被殻や

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