診療支援
治療

45水溶性の中等度の刺激性ガス
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

最初の10分メモ

発生する状況

■塩素

・多くの金属や有機物と反応して塩化物を産生するため化学工業で広く用いられている.また,強い漂白作用や殺菌作用をもつため脱色剤やプールの消毒剤としても用いられているが,気体での扱いは困難なため,水酸化ナトリウムを安定化剤として次亜塩素酸ナトリウムの形で用いられている.下記の化学反応式のように,家庭用の次亜塩素酸を含む漂白剤やカビ取り剤と塩酸などの強酸を含む洗浄剤を混合すると塩素ガスが発生する.

  NaClO+2HCl→Cl2+NaCl+H2O


診断のポイント

・現場に塩素ガスの発生源があり,同じ現場にいた人およびペットに眼・鼻・口咽頭・喉頭症状,上気道症状,下気道症状を認める.

・患者が,「刺激臭がした」と訴える.


治療のポイント

・上気道閉塞には気管挿管または気管挿管ができなければ輪状甲状靱帯切開術により気道を確保し,必要に応じて人工呼吸器管理.


Do&Don't

・眼症状があれば眼科専門医にコンサルト.

・高齢者,気管支喘息またはCOPDの患者は重症になりやすいので注意.


概説

塩素

 黄緑色の,特有な刺激臭のする,非常に反応性の高い気体で,水に中等度に溶け,刺激性が高い.沸点は,-34.04℃である.空気より2.5倍重い.


薬物動態

塩素ガス

・曝露されると,湿った粘膜に中等度に吸収されて,塩酸および次亜塩素酸となる.塩酸は,以下のように電離して酸性を示す.塩素のオキソ酸である次亜塩素酸は,酸素フリーラジカルによる強い酸化作用をもつ.

 Cl2+H2O→HCl+HClO

 HCl→H+Cl

 HClO→HCl+(O)


毒性のメカニズム

・図1に示すように,水溶性の中等度の刺激性ガスは,曝露後に,眼・鼻・口咽頭・喉頭,上気道の粘膜,ばかりでなく,気管支,細気管支,肺胞などの下気道の粘膜にも広範囲に吸収されて刺激性を発揮する.

・低濃度では曝露に気づかれずに長期曝露とな

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