診療支援
治療

【12】下血,血便
melena,hematochezia
篠浦 丞
(国際医療福祉大学教授・赤坂心理・医療福祉マネジメント学部)

症候を診るポイント

●バイタルサインの評価と補正が最優先.

●出血源推定のため,便性状を可能なかぎり正確に把握する(下血か血便か).

▼定義

 下血(melena)は,黒色泥状便が排泄されること.タール便(tarry stool)ともいう.血便(hematochezia)は,新鮮血か,新鮮血混入便が排泄されること.

▼病態生理

 下血は上部消化管由来,血便は下部小腸,盲腸,大腸由来であることが多い.

 下血の厳密な機序は不明である.「胃酸による血液変性」つまり上部消化管出血であることが必要とする意見に対し,下部小腸,盲腸,上行結腸由来の下血が存在することから,一定以上の腸管内血液停留時間(腸内細菌曝露)のみが必要で,どの部位からの出血も下血となりうるという意見がある.

 血便には新鮮血排泄(bright red blood per rectum:BRBPR)と暗赤色泥状便(maroon stool)が含まれるが,新鮮血排泄のうち凝血塊を伴う新鮮血排泄(BRBPR with clot)は,直腸肛門付近が出血源のことが多い.暗赤色泥状便は,下部小腸~右半結腸由来の出血が多い.

‍ 血便が上部消化管由来の場合,大量出血でショックに陥る場合が多い.上部消化管由来出血のうちバイタル安定症例は15%程度存在するが,これらも再出血時にショックとなるなど重症化する場合が多い.

▼初期対応

バイタルサイン,服薬歴,併存疾患の評価

 来院時バイタルサイン評価と並行して,服薬歴(抗血小板薬・抗凝固薬・消炎鎮痛薬・非選択的β拮抗薬),併存疾患(非代償性肝硬変・特発性血小板減少性紫斑病・遺伝性出血性毛細血管拡張症,虚血性心疾患)を把握する.特に服薬歴では,非選択的β拮抗薬服用中やペースメーカ使用中の患者では頻脈とならないことに注意する.

 問診で下血,血便などの専門用語は理解されにくいので,下血は「イカ墨様の便」,血便は「

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