診療支援
治療

【6】記憶障害
memory impairment
森川 暢
(市立奈良病院・総合診療科)

症候を診るポイント

●脳炎,髄膜炎,脳卒中,Wernicke脳症などの緊急性の高い疾患を除外する必要がある.

●認知症を疑う場合はMMSEの評価と,treatable dementiaの除外が重要である.

▼定義

 記憶は短期記憶長期記憶に分類される.短期記憶は数十秒程度の記憶,長期記憶は数分から数十年前の記憶と定義される.記憶障害もまた短期記憶障害と長期記憶障害に分類される.長期記憶は陳述記憶と非陳述記憶に分類される.前者は言葉で表現可能で,後者は言葉で表現が難しいことで区別される.陳述記憶は,知識に基づいた意味記憶と体験・経験に基づいた出来事記憶に分類される.出来事記憶は加齢や認知症で障害されやすい.一方,意味記憶は加齢による障害を受けにくい.非陳述記憶の一種である手続き記憶は,作業・動作に関連し,加齢や認知症で影響を受けにくい.

▼病態生理

 Papez(ペーペズ)回路は,帯状回,海馬,視床下部,視床前核から構成される閉鎖回路であり記憶と密接な関連があるとされている.海馬が進行性に緩徐に障害される病態としてAlzheimer(アルツハイマー)型認知症が挙げられる.頭部外傷などの明らかな誘因なく,突然新たな記憶が全くできなくなる病態を一過性全健忘とよぶ.一過性全健忘では,海馬に画像上の異常が認められることがある.視床梗塞でも同様に記憶障害を認め,時に一過性全健忘と鑑別が難しい.記憶障害では,海馬や視床の問題を想起することが肝要である.

▼初期対応

 記憶障害の初期対応として重要なのは,脳炎,髄膜炎,脳卒中などの緊急性の高い頭蓋内疾患を除外することである.特に若年者の急性発症する記憶障害は,脳炎を考えるべきである.脳炎は治療可能であるが,統合失調症や認知症と見誤られると,治療のゴールデンタイムを逃し,不幸な転帰をたどりうる.また記憶障害は本人からの病歴聴取だけでは不十分であることが多い

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