▼定義
呼吸不全は「原因疾患を問わず動脈血液ガス(特にPaO2とPaCO2)が異常値を示し,そのために生体が正常な機能を営みえない状態」と定義される.具体的な診断基準を表2-42図に示す.
急性とは臨床経過が数時間から1か月未満で呼吸不全に至るものを指すのが一般的である.急性呼吸不全は,正常な呼吸機能を有するものに発症し,多くは日の単位で進行する狭義の急性呼吸不全と,慢性呼吸器疾患症例に急速な症状,所見の悪化が生じて呼吸不全に陥る急性増悪とに分けられる.
▼原因疾患
急性呼吸不全は動脈血液ガスと臨床経過から定義される病態で,原因となる疾患が必ず存在する(表2-43図).急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は急性呼吸不全の代表的病態であり,狭義の急性呼吸不全と同義語のように用いられることもある.ARDS自体が臨床症候群であり,敗血症,呼吸器感染症,外傷,誤嚥などに引き続いて発症する.心原性肺水腫は心筋梗塞や弁膜症などのため左房圧が上昇し,肺血管外水分量が増加して肺水腫となる.呼吸不全や循環動態の異常を伴う肺炎を重症肺炎というが,肺炎球菌,レジオネラ,インフルエンザウイルスなどが代表的な病原微生物である.慢性呼吸器疾患の急性増悪は,急性呼吸不全の大半を占め,基礎疾患の悪化,感染症の合併,心不全などが誘因となって,呼吸不全が短時間で悪化するのが病態である.
▼症状
呼吸不全で認められる症状を,低酸素血症によるものと高二酸化炭素血症によるものに分けて概説する.
➊低酸素血症による症状
各臓器機能は,PaO2が20~30Torr程度までは維持されるが,脳のように低酸素血症に感受性が高い臓器では,PaO2が20Torr以下になると細胞内への酸素の取り込みができなくなる.このため代償機能として,心拍出量増加,脳への血流分布増大,