遺伝性凝固能異常症については,第8章「血栓症を生じる疾患」の各項(→)を参照されたい.ここでは,循環器内科医が知っておくべき凝固能亢進および血栓症リスクを招く病態について述べる.
➊外科的侵襲と移動能力障害
外科的侵襲では血管を直接傷害したり,術後の移動能力低下により,下肢深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)を引き起こしやすくなる.危険因子は,高齢,整形外科手術,広範囲腹部手術,骨盤内手術などがあり,下肢深部静脈血栓症リスクが約20倍上昇し,DVT患者の約60%に移動能力の障害をもっている.
➋高齢
50歳より若い年齢では,10,000人に1人の率でDVTの発生があるといわれているが,その後は10年単位でおよそ10倍ずつのリスク上昇に影響する.男性が女性より1.2倍も血栓症リスクが高いが,閉経前の女性のリスクは45歳未満の男性より高い.高齢になれば,移動能力も低下し,また血管内皮機能の低下による向血栓傾向も影響していると考えられる.
➌肥満
DVTのリスクは,BMIが10kg/m2ごとに1.2倍上昇するといわれている.肥満患者では,移動能力の低下や脂肪組織内脂肪細胞からの炎症惹起サイトカインの放出,例えばプラスミノゲンアクチベータインヒビター(plasminogen activator inhibitor:PAI)-1活性の増大に伴い線溶系の障害をもたらすことと関連がある.
➍がん
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)をもつ患者のおよそ20%にがんの併発がいわれており,特に,脳腫瘍,膵癌,進行性卵巣癌,前立腺癌では高いリスクがある.抗エストロゲン薬のタモキシフェン薬やSERMsといわれる選択的エストロゲン受容体モジュレーターは,抗凝固因子を減少させることで凝固能を亢進させる.本章「腫瘍循環器学」の項(→)も参照さ
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