診療支援
治療

【5】腫瘍循環器学
cardio-oncology
諸岡 俊文
(山元記念病院・循環器内科部長)
野出 孝一
(佐賀大学教授・循環器内科)

 がん治療の研究成果が新しい分子標的治療や抗がん剤の開発をうみ,超高齢社会において,がん罹患率は増してきているが生命予後は著しく改善してきている.一方で,われわれはがん治療による経過において,治療薬による心毒性(cardiotoxicity)や心血管毒性(cardiovascular toxicity)が出現することを経験するようになり,がん治療と並行した循環器診療の必要性が高まっている.また古くから知られているTrousseau(トルソー)症候群に代表されるがんによる血液凝固能異常に起因した血栓症も重要な観察項目である.

▼定義

 がん化学療法に伴う心毒性は1970年代にアントラサイクリン系薬剤であるドキソルビシンによる心筋障害(タイプⅠ)の報告に端を発し,心毒性を有する代表的な抗がん剤が明らかとなってきた.さらに,2000年以降,分子標的治療薬の登場により,トラスツズマブに代表される新しいタイプの心機能障害(タイプⅡ)も知られるようになった.これらをがん治療関連心機能障害(cancer therapeutics related cardiac dysfunction:CTRCD)とよぶ概念が提唱され,左室駆出率が10%以上低下し,50%未満を心毒性とみなす見解が示された.その他,血管新生阻害薬やプロテアソーム阻害薬による心毒性の報告もあって,心機能障害のみならず,高血圧,血栓形成,特に深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)などのリスク,いわゆるがん関連血栓症(cancer associated thrombosis:CAT)も含めて考えていかなくてはならない(表3-58)

▼病態・機序

 アントラサイクリン系による心毒性の機序は,酸化ストレスが強く関与しているといわれている.ドキソルビシンは,心筋細胞ではミトコンドリアに集積し,ミトコンドリ

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