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治療

1 マロリー-ワイス症候群
Mallory-Weiss syndrome
磯本 一
(鳥取大学教授・機能病態内科学)

▼定義

 Mallory-Weiss(マロリー-ワイス)症候群とは,嘔吐などにより腹圧が上昇することによって,下部食道,胃食道接合部,胃噴門部粘膜に裂創が生じて,これを出血源として顕出血を起こす症候群である.

▼病態

 多くは激しい嘔吐後に出現することから,腹圧の急激な上昇や強い胃の収縮運動が関与し,さらには胃噴門領域が食道へ逸脱する機械的刺激が加わり裂創が形成されると考えられる.

 誘因となるものは,飲酒後,乗り物酔い,悪阻などに伴う嘔吐のほかに咳嗽や努責,さらには上部消化管の内視鏡検査・治療そのものがある.

▼疫学

 上部消化管出血の約5~15%を占める.男性に多く,30~50歳に好発する.

▼症候

 吐血が症状としては多いが,下血のみの症例もある.典型的には,飲酒によって頻回の嘔吐を繰り返すうちに吐血(鮮血に近い)する.大量出血した場合はショック状態となりうるが,自然止血し顕著な症状を呈さないものがほとんどである.

▼分類

 発生部位は食道胃接合部の胃側(噴門部)に多いが,下部食道に裂創が限局するもの,下部食道から胃噴門部にわたって裂創を認めるもの,の3つに分類される.病変は進展負荷がかかりやすい小弯側に多く,単発のことも多発することもある.

▼診断

‍ 嘔吐後の吐血という病歴の聴取が診断の手がかりとなる.出血量の推定に,バイタルサイン,ショックの有無,貧血の有無や程度を把握し,基礎疾患の有無を検索する.確定診断には内視鏡が最も有用である(図4-20).裂創病変は食道,胃の長軸と平行し,線状または紡錘状の形状を示す.内視鏡検査の際には過剰送気は避けるよう心がける.同じように嘔吐後に発症する特発性食道破裂〔Boerhaave(ブールハーフェ)症候群〕との鑑別診断が重要である.深い裂創を認め,胸背部痛,呼吸困難や急速に進展するショック症状があれば特発性食道破裂を疑う.

▼治療

 多くは粘膜下層まで

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