診療支援
治療

(1)特発性細菌性腹膜炎
spontaneous bacterial peritonitis(SBP)
髙村 昌昭
(新潟大学大学院准教授・消化器内科学)
寺井 崇二
(新潟大学大学院教授・消化器内科学)

疾患を疑うポイント

●有腹水肝硬変症例では,穿刺により原因精査を行うと同時に,SBP合併の有無を調べる.

学びのポイント

●SBPでは,発熱,腹痛や腹部圧痛などの症状がみられない症例も多いため注意する.

●SBPの診断には,腹水穿刺液の細菌培養と好中球数算定で判断する.診断の遅れは致死的となるため,細菌培養が陰性であっても,腹水好中球数が250/mm3以上で外科的腹腔内感染のないものをSBPと診断して抗菌薬治療を開始することが推奨されている.

●SBPの原因菌は腸管由来のグラム陰性桿菌が多く,第3世代セファロスポリン系抗菌薬の経静脈投与が推奨される.

▼定義

 SBPは非代償性肝硬変に合併する腹膜炎で,腸管感染症や腹腔内膿瘍など腹腔内に明らかな感染巣が認められないものと定義される.

▼病態

 発症メカニズムは不明な点が多いが,腸内細菌の過剰増殖や腸管透過性亢進(leaky gut症候群)による腸間膜リンパ節,血中へのbacterial translocation,門脈-大循環シャント形成による網内系機能の低下,皮膚粘膜バリアの変化による非腸内細菌による菌血症をきたし,好中球機能の低下により腹水内での細菌の増殖を抑制できずに発症すると考えられている(図5-11)

▼疫学

 腹水を有する非代償性肝硬変症例の約10~20%に合併する.

▼診断

 発熱,腹痛,腹部圧痛などの症状がみられるのは60%程度であることから,腹水穿刺を行い,腹水の細菌培養好中球数算定で診断する.細菌培養陽性で好中球数が250/mm3以上なら確定診断であるが,細菌培養は結果判定まで時間を要するため,細菌培養が陰性であっても腹水中の好中球数が500/mm3以上または好中球数が250~500/mm3の場合でも上記のような症状を伴い,外科的に治療可能な腹腔内感染がない場合にはSBPと診断してただちに抗菌薬治療を開始する.好中球数算定が

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