疾患を疑うポイント
●常習飲酒者で,ほかにウイルス性肝炎,自己免疫性肝炎,薬物性肝障害などが否定的な肝障害患者が疑わしい.
●アルコール代謝能は個人差があるので少量の飲酒量でも本症を発症する可能性がある.
学びのポイント
●アルコールの肝臓での主な代謝経路はADH系であるが,その他にMEOSおよびカタラーゼ系がある.
●アルコールの中間代謝産物であり,細胞毒性を有するアセトアルデヒドの代謝酵素である2型ALDHには遺伝子多型が存在する.
●アルコール性肝炎は,常習飲酒者の急激な飲酒量の増加によって起こる病態であり,腹痛,発熱,黄疸,白血球増加を伴う.重症型アルコール性肝炎になると急性腎不全,感染,消化管出血などを伴って致死的となる.
▼定義
慢性的な過剰飲酒により引き起こされる肝障害であり,通常,エタノール換算60g(日本酒約3合)/日以上の飲酒を5年以上継続することによって発症するが,エタノールに対する肝障害の感受性には個人差が大きく,性差,年齢,栄養状態,遺伝的素因,基礎疾患の有無などによって異なる.
▼病態
慢性飲酒(5年以上)を主因とする肝障害であり,エタノール60g(日本酒約3合)/日以上,女性や2型アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)欠損者(フラッシャー)は少量の飲酒でも起こる.非アルコール性脂肪性肝疾患は男性でエタノール30g/日未満,女性20g/日未満を目安とする.
摂取されたエタノールは胃,十二指腸および上部空腸ですみやかに吸収されて門脈へ流入する.門脈を経て肝に到達したエタノールはアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)でアセトアルデヒドとなる(図5-20図).アセトアルデヒドはALDHで酢酸となりTCA回路で水と二酸化炭素に分解されるが,アセトアルデヒドには細胞毒性があり,ミトコンドリアの機能