診療支援
治療

1 糖尿病ケトアシドーシス
diabetic ketoacidosis(DKA)
廣田 勇士
(神戸大学医学部附属病院・糖尿病・内分泌内科講師)
小川 渉
(神戸大学大学院教授・糖尿病・内分泌内科学)

疾患を疑うポイント

●ケトーシスに伴うことが多い悪心・嘔吐などの消化器症状が認められた場合に疑う.

学びのポイント

●インスリンの絶対的欠乏状態にある1型糖尿病患者で生じることが多い.

●高度のインスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモンの過剰による,脂肪分解の亢進がケトン体合成を増やしアシドーシスをきたす.

●輸液,インスリン静脈内注射,電解質の補充が治療のポイント.

▼定義

 インスリン作用の欠乏により生じる高度の急性代謝失調状態.高度のインスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモン(グルカゴン,カテコールアミンなど)の過剰により,脂肪分解の亢進が起こり,ケトン体合成が高まることにより血中にケトン体が増加し,代謝性アシドーシスを呈した状態である.

▼病態

 インスリンの高度な欠乏状態では,肝臓における糖新生の増加,骨格筋における糖取り込み低下により高血糖を生じるとともに,脂肪組織においては脂肪分解が亢進し遊離脂肪酸の供給が著明に増加している.インスリン欠乏下の肝細胞では,遊離脂肪酸はβ酸化を受けてアセチルCoAとなる.通常,アセチルCoAはTCA回路に入りエネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)を生み出すが,インスリンの高度欠乏下ではアセチルCoAが大量に生じることから,アセチルCoAからアセト酢酸の生成が進み,さらに3-ヒドロキシ酪酸,アセトンへと代謝される.アセト酢酸,3-ヒドロキシ酪酸,アセトンがケトン体であり,グルカゴン,カテコールアミン,コルチゾール,成長ホルモンなどインスリン拮抗ホルモンの上昇も,ケトン体濃度の上昇に関与している.ケトン体(主に3-ヒドロキシ酪酸,アセト酢酸)は酸性であり,これらの過剰状態はアシドーシスを招き,糖尿病ケトアシドーシスへ至る.アセトンは肺から徐々に排出されるため,アセトン臭の原因となる.アシドーシスの程度が強い場合には,呼吸中枢の抑制とアシドーシスに対する呼吸

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