疾患を疑うポイント
●糖尿病治療薬による薬剤性低血糖症の頻度が圧倒的に多い.
●振戦,頻脈,不安感,空腹感,発汗などの自律神経症状で発症し,重篤な低血糖では眠気,意識障害などの中枢神経症状も合併する.単純糖質の投与によって症状が迅速に回復するのが特徴である.
学びのポイント
●意識障害を引き起こす多くの病態のなかで,診断が遅れると重篤かつ不可逆的な脳障害が生じるものの,迅速な診断と治療によって回復し得る病態であることから意識障害を診たらまず血糖値を測定すべきである.
▼定義
血糖値は静脈血漿中のブドウ糖濃度(plasma glucose concentrations)と定義される.低血糖症は血糖値の低下に伴う自律神経または中枢神経症状をきたした状態と定義される.通常は血糖値が55mg/dL以下に至ると自覚症状を生じるが,患者の基礎疾患や病態により症状出現に至る血糖値は変動しうる.
▼病態生理・原因
ブドウ糖は人体でのエネルギー産生に不可欠な物質である.特に脳では生理状態でのエネルギーのほとんどをブドウ糖に依存しており,長期飢餓時ではケトン体も利用することが知られているものの,ブドウ糖の持続的な欠乏は生命維持の根幹を揺るがす危機といえる.人体においてはブドウ糖を低下させるホルモンは唯一インスリンのみであるが,ブドウ糖を上昇させるホルモン(拮抗ホルモン,counter-regulatory hormone)としては,グルカゴン,カテコールアミン,グルココルチコイド,成長ホルモンと複数知られている.健常であれば血漿ブドウ糖濃度の低下に従ってまずインスリン分泌が抑制され,続いて拮抗ホルモン群の分泌増加によって肝臓でのグリコーゲン分解,肝臓や腎臓でのアミノ酸およびグリセロールからの糖新生を亢進させることで複合的にブドウ糖上昇をもたらす.特にグルカゴンおよびカテコールアミン作用は,効果発現が早いた