診療支援
治療

(1)神経性やせ症
anorexia nervosa
鈴木(堀田) 眞理
(跡見学園女子大学心理学部特任教授)

疾患を疑うポイント

●標準体重の-20%以上のやせが3か月以上継続し,女性なら無月経になり,やせをきたす器質的疾患が否定された場合に疑う.

●やせるための行動,飢餓の反動としての食への執着行為,病識の欠如が特徴.

学びのポイント

●思春期女性に多く,低血糖性昏睡などの致死的な合併症があり,死亡率は精神疾患のなかで最も高い.多彩な内分泌異常を呈し,低身長,骨粗鬆症は後遺症になりうる.

●refeeding syndromeのハイリスク群.

▼定義

 心理的要因で小食になり,あるいは,飢餓の反動で過食が起こっても排出行為でやせを維持している心身症.過食とは自制ができないむちゃ食い発作,排出行為とは自己誘発性嘔吐や下剤・利尿薬の乱用と定義される.

▼病態

病因

 ストレスで食行動異常を起こしやすい生物学的素因,不安症,強迫的,完璧主義の性格傾向,ストレス要因が多い生活環境,やせを賞賛する文化などを背景に,コーピングスキル(ストレス対処能力)が未熟なために,挫折体験を契機に食欲不振やダイエットで発症する.やせると嫌な現実を回避できるような心理と周囲の配慮や義務の免除などが得られる.

臨床症状

 小食で,野菜や海藻などの低カロリー食品を好み,過活動で長い入浴時間など体重を減らす行為の一方で,飢餓の反動で食への執着行動が起こる.料理や食べ物への異常な興味,家族に摂食の強要,食べ物の貯蔵,盗み食いや過食などである.さらに,抑うつ・不安・強迫性の増強,人柄の変化など飢餓症候群とよばれる精神症状が起こることは,健康人の半飢餓臨床試験でも証明されている.罹患中は視覚と固有受容感覚の統合障害によって自分だけが太く見え,病識のなさを助長する.

理学的所見と一般検査所見(表7-6)

 やせが主症状で,低血圧,徐脈,低体温になる.産毛が増え,カロチンが皮膚に蓄積する.浮腫は低栄養でも再栄養でもみられる.自己誘発性嘔吐例で

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