診療支援
治療

8 中枢性尿崩症
central diabetes insipidus
有馬 寛
(名古屋大学大学院教授・糖尿病・内分泌内科学)

疾患を疑うポイント

●口渇,多飲,多尿.

●症状の出現は昼夜を問わない.

●血清ナトリウム濃度はやや高値.

●尿浸透圧は低値.

学びのポイント

●抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌不全によって腎臓における尿の濃縮が損なわれ,結果として低張性の多尿が生じる疾患.

●視床下部の腫瘍や炎症によって生じることが多い.

●治療に用いるデスモプレシンはバソプレシンのアナログで,抗利尿作用の持続時間が長い.

▼定義

‍ バソプレシンは腎臓において水の再吸収を促進する抗利尿ホルモンで,視床下部の視索上核および室傍核で合成され,軸索輸送により下垂体後葉に運ばれた後に血中に分泌される.中枢性尿崩症はバソプレシンの合成および分泌の障害により低張性多尿,口渇,多飲を呈する疾患.

▼病態

 バソプレシンの分泌は主として血清ナトリウム濃度により調節されている.すなわち,血清ナトリウム濃度が上昇すればバソプレシンの分泌が亢進し,腎臓における水の再吸収が促進される結果,血清ナトリウム濃度は低下して再び元の値(約140mEq/L)に戻る.中枢性尿崩症では視床下部のバソプレシンニューロンの傷害によりバソプレシンの合成および分泌が障害されるため,血清ナトリウム濃度が上昇しても血漿バソプレシン濃度の上昇を認めない.そのため,血清ナトリウム濃度は喉の渇きが生じる値(約145mEq/L)まで上昇し,患者は喉の渇きから大量の水分を摂取する.しかし,摂取した水分はすぐに尿となって排泄されるため,口渇,多飲,多尿を呈することになる.

▼疫学

 中枢性尿崩症の有病率は10万人あたり7~10人と推定される.

▼分類

 中枢性尿崩症は原因不明の特発性,視床下部-下垂体後葉系に器質的異常を認める続発性,そして主として常染色体優性遺伝形式を示す家族性に分類される.特発性中枢性尿崩症の発症には自己免疫の関与が示唆されているが,詳細はまだ解明されていない.一方,

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?