疾患を疑うポイント
●低ナトリウム血症.
●尿中ナトリウムが20mEq/L以上.
●脱水を示唆する所見を認めない.
学びのポイント
●血清ナトリウム濃度が低下した状態においてもバソプレシンの抗利尿作用が持続し,結果として低ナトリウム血症を呈する疾患.
●腎臓における自由水の再吸収によっていったん体液量は増加するが,その後に代償性のナトリウム利尿が生じ,SIADHにおける体液量は正常範囲となる.
●治療の第一は水制限.
▼定義
通常は血清ナトリウム濃度がわずかでも低下すると,抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌はすみやかに低下し,その結果として水利尿が生じて血清ナトリウム濃度は正常範囲に戻る.これに対しSIADHは低ナトリウム血症にもかかわらずバソプレシンの抗利尿作用が持続している疾患.
▼病態
SIADHではバソプレシンの抗利尿作用により腎臓からの自由水の吸収が増加して循環血液量がいったん増加するが,これに反応して心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌が亢進する.また,バソプレシンの分泌が長期間持続するとバソプレシンのV2受容体の発現が低下する.その結果,循環血液量は正常範囲となる(図7-11図).
▼疫学
低ナトリウム血症は入院患者に最も多く認められる電解質異常であり,またSIADHは低ナトリウム血症の30~40%を占めると推定される.
▼分類
SIADHの原因としては中枢神経系疾患,肺疾患,薬剤などが挙げられる(表7-15図).脳炎,髄膜炎,脳梗塞,脳出血,頭部外傷などの中枢神経系疾患では,視床下部の視索上核および室傍核のバソプレシンニューロンが刺激され,血清ナトリウム濃度とは無関係にバソプレシンの分泌が生じる.肺炎,肺結核,気管支喘息などの肺疾患では,心房に存在する容量受容体や頸動脈洞に存在する圧受容体,あるいはそれらのシグナルを伝える迷走神経を介してバソプレシンの分泌を促すと考えられている