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治療

(1)バセドウ病(グレーヴス病)
赤水 尚史
(和歌山県立医科大学学長特命教授)

▼定義

 甲状腺腫と眼球突出・動悸などの臨床症状を結びつけたBasedow(バセドウ)病〔Graves(グレーヴス)病〕の記述は,1835年Robert J Graves(アイルランド)や1840年Karl Adolf von Basedow(ドイツ)らによってなされた.1956年のAdamsらによるlong-acting thyroid stimulator(LATS)の発見などからBasedow病が自己免疫疾患であることがわかり,その自己抗原がTSH受容体であることが1974年Smithらによって示された.

▼病態

 複数の遺伝的要因と環境的要因との関与のもと,自己のTSH受容体に対する免疫制御機構の破綻が生じ,その結果抗TSH受容体抗体(TRAb)が生成され,TRAbが,TSHと同じように甲状腺を刺激して,甲状腺ホルモンの合成や分泌を増加させ,甲状腺機能亢進症や眼症などの甲状腺外症状が引き起こされる.また,Basedow病では眼球突出や複視など眼症状を合併することがある.自己免疫的機序によって後眼窩脂肪組織や結合組織の増生腫大や外眼筋の炎症性肥厚が生じ,眼球の前方への突出や眼球運動障害をきたすためと考えられている.

▼疫学

 15~50歳女性に発症することが多く,有病率は女性の約0.3%といわれる.男女比は1:7~10である.

▼臨床症状

 甲状腺機能亢進状態によるものと甲状腺以外の症状に大別される.前者は,動悸,多汗,体重減少,疲労感,手指振戦などの自覚症状やびまん性甲状腺腫,頻脈などの他覚症状を呈する.後者に関しては,眼症状(眼球突出・複視・眼球偏位)や前脛骨部粘液水腫が挙げられる.眼症状には,甲状腺ホルモン過剰によって起こる交感神経機能亢進作用による機能性眼症[眼瞼遅延〔von Graefe(グレーフェ)徴候〕],眼瞼後退〔Dalrymple(ダルリンプル)徴候〕,瞬目減少な

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