疾患を疑うポイント
●甲状腺の破壊により,甲状腺から甲状腺ホルモンが逸脱して生じる一過性甲状腺中毒症で,発熱や甲状腺の疼痛・圧痛を認めない.
学びのポイント
●甲状腺中毒症の症状を1つでも認めた場合にはFT4,TSHを測定する.
●無痛性甲状腺炎とBasedow病との鑑別が重要.
●産後の体調不良の際には,出産後甲状腺炎を念頭において患者を診察する.
●無痛性甲状腺炎の経過および予後を理解する.
▼定義
①甲状腺の破壊により,甲状腺から甲状腺ホルモンが逸脱して生じる一過性甲状腺中毒症であり,②甲状腺に疼痛・圧痛がない,および③発熱を認めないことを特徴とする疾患.
▼病態
自己免疫性機序により甲状腺から甲状腺ホルモンが逸脱すると推測される.無痛性甲状腺炎は,①約80%が甲状腺自己抗体陽性,②病理所見は慢性甲状腺炎を示す,③甲状腺中毒症期に活性型ヘルパー・インデューサーT細胞,IL-12および抗DNA抗体が増加する,④ヒトリンパ球抗原(HLA)のDR3との相関性,そして⑤自己免疫性疾患における無痛性甲状腺炎発症の症例報告があるなどから,発症機序に免疫異常が関与していると考えられる.
▼疫学
無痛性甲状腺炎は,甲状腺中毒症の10~20%を占め,女性に多い.年齢は女性で20~40歳代に多く,男性は広い年齢に分布する.慢性甲状腺炎(橋本病)を基盤として起こることが多く,寛解中のBasedow(バセドウ)病や出産後にも起こる.出産後の無痛性甲状腺炎は一般女性の5~10%と高頻度に出現し,抗甲状腺自己抗体が陽性の女性では,半数以上が出産後に甲状腺機能異常を発症する.
▼分類
無痛性甲状腺炎は出産との関係で,出産と無関係に発症する散発性無痛性甲状腺炎と出産後甲状腺炎に分類される.散発性無痛性甲状腺炎は,臨床経過から2型に分類され,甲状腺中毒症が自然に約2か月(<6か月)後に正常化し治癒する場合と,約1か月(<