疾患を疑うポイント
●前頸部に腫脹,熱感,皮膚の発赤,自発痛,圧痛を認める.
●小児では咽頭梨状窩瘻からの感染によるものが多く左側が多い.
●成人例では免疫不全を呈する基礎疾患を有する例が多い.
学びのポイント
●前頸部に痛みを認める疾患の1つ.亜急性甲状腺炎を鑑別する.
●急性期には抗菌薬投与,膿瘍を形成した場合は外科的ドレナージが必要.
●咽頭梨状窩瘻によるものは再発予防のために瘻孔の閉鎖が必要.
▼定義
甲状腺または甲状腺周囲の感染による炎症である.細菌感染が多いが真菌などほかの病原微生物も原因となりうる.
▼病態
小児では胎生期の遺残である咽頭梨状窩瘻からの細菌感染による甲状腺周囲炎が最も多い.90%以上の例で左側に発症する.軟部組織の炎症から膿瘍を形成し,前頸部の痛み,発熱,嚥下障害を訴える.局所所見として腫脹,熱感,皮膚の発赤,自発痛,圧痛を認める.まれに成人期に初発することがある.
成人例ではHIV感染症,免疫抑制薬や化学療法による免疫能低下などを背景にもつ例が多い.細菌性心内膜炎からの血行性波及や甲状腺結節に対する穿刺吸引細胞診が原因となることがある.症状や局所所見は咽頭梨状窩瘻からの感染によるものと同様である.
小児例で多く検出される起炎菌はStaphylococcus aureus,Streptococcus pyogenes,Staphylococcus epidermidis,Streptococcus pneumoniaeなどである.しかし,これら以外の細菌による例や重複感染例もある.免疫能が低下した宿主ではPneumocystis jiroveciiなどの真菌によることがある.
▼疫学
甲状腺は血流やリンパ流が豊富であること,高濃度のヨウ素を含有すること,被膜により周囲組織と隔絶されていることなどにより感染に対して抵抗性のある臓器である.そのため感染性甲状腺炎は非常
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