▼定義
赤血球酵素異常症は先天性非球状性溶血性貧血の一病型であり,解糖系,ペントースリン酸回路,プリン・ピリミジン代謝,グルタチオン(glutathione:GSH)合成・代謝系の酵素遺伝子の変異により発症する単一遺伝子病である.
▼病態
成熟赤血球には核やミトコンドリアがなく,酸化的リン酸化によるATP産生ができないため,赤血球膜の維持に必要なATPはブドウ糖を嫌気的に解糖して産生している.また,酸化ストレスから赤血球を守るために必要な還元型グルタチオンも糖代謝によって得られる.これら代謝酵素の働きにより120日の赤血球寿命が維持される.
赤血球において,ブドウ糖の90%はEmbden-Meyerhof(エムデン-マイヤーホフ)回路で代謝されて乳酸となり,1分子のブドウ糖から2分子のATPが産生される(図8-18図).このときピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase:PK)に異常があるとATPの産生が低下し,赤血球はエネルギー不足に陥り溶血する.また,ブドウ糖の残り10%は,ペントースリン酸回路〔Warburg-Dickens(ワールブルグ-ディケンズ)回路〕で代謝され,酸化ストレスから赤血球膜を防御するGSHと還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を産生する.この回路でグルコース-6-リン酸脱水素酵素(glucose-6-phosphate dehydrogenase:G6PD)に異常が生じるとGSHの供給ができなくなり,酸化ストレスから赤血球を守ることができず,酸化作用を有する食物や薬物を摂ると溶血が起こる.
▼疫学・分類
現在までに17種類の酵素異常が知られているが,最も多いのはG6PD異常症で,世界で4億人以上の患者がいる.次いで多いのがPK異常症である.わが国での本症の頻度は,溶血性貧血全体の約2.4%(1975年疫学調査)である
関連リンク
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