診療支援
治療

1 血管性認知症
vascular dementia
猪原 匡史
(国立循環器病研究センター病院・脳神経内科部長)

疾患を疑うポイント

●認知機能障害に加えて,運動障害,感覚障害,構音障害,嚥下障害,排尿障害などの局所脳機能障害を伴う場合に疑う.

●脳血管障害の原因となりうる高血圧や糖尿病などの心血管リスク因子を伴っていることが多い.

学びのポイント

●認知症の3割近くを占める頻度の高い認知症であり,65歳未満の若年性認知症ではいまだに筆頭原因.

●Alzheimer病とは異なり,その診断に記憶障害が必発ではなく,実行機能障害や注意障害を呈しやすい.

●脳血管障害に伴うさまざまな神経局所徴候を伴うことが多い.

●脳血管障害の予防が中核治療であり,治療・予防が可能な認知症.

▼定義

 ①認知症があり,②画像上脳血管障害がみられ,③両者の因果関係がある,という3点を満たすこと.

▼分類・病態

 脳血管障害の時間的・空間的分布に応じて,いくつかの亜型に分類される(図10-56)

皮質性(多発梗塞性)

 主幹動脈本幹・分枝のアテローム血栓症,塞栓症,もしくは心原性塞栓症などにより,単発もしくは多発性の皮質枝領域梗塞を生じたもの

小血管病性

‍ 多発性ラクナ梗塞性進行性皮質下血管性〔Binswanger(ビンスワンガー)型〕に分類される.前者は穿通枝の閉塞で生じる直径15mm未満の小梗塞が基底核,白質,視床,橋などに多発した病態で,後者は大脳白質に広範に梗塞・不全軟化を生じ,白質線維が障害され前頭前野回路や視床皮質路などの連絡機能が寸断された病態である.

認知症の成立に必要な領域の限局性(“strategic infarction”といわれる)

 Papez(ペーペズ,パペッツ)の回路やYakovlev(ヤコブレフ)の回路といった記憶にかかわる限局した部位に脳血管障害を生じて発症する血管性認知症をさす.代表的な障害部位は,①皮質では海馬,角回,帯状回,②皮質下では視床,脳弓,尾状核,淡蒼球,内包膝部である.

低酸素・

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?