疾患を疑うポイント
●中年期以降に発症する,顔面・舌を含む全身びまん性の緩徐進行性筋萎縮と線維束性収縮.
●感覚障害は伴わず,腱反射は亢進や低下が混在.
学びのポイント
●運動ニューロンの変性脱落により,全身の随意筋が徐々に萎縮して寝たきりとなり,発症後数年で死に至る.原因は不明で有効な治療法が全くない,難病中の難病.
●LMNの変性によって線維束性収縮を伴う筋萎縮が緩徐に進行し,UMNの脱落により腱反射が亢進してBabinski徴候などの病的反射が出現する.
●脊髄障害や末梢神経障害の鑑別が必要であるが,本疾患は運動ニューロンの選択的変性であり,感覚障害は伴わず,膀胱直腸障害などの自律神経症状や小脳失調などを認めない.
▼定義
上位運動ニューロン(upper motor neuron:UMN)と下位運動ニューロン(lower motor neuron:LMN)が選択的に変性する疾患.中年期以降に筋力低下と筋萎縮が散発的に生じ,進行性に全身に広がり,呼吸不全により死亡する.
▼病態・病理
UMNである大脳皮質運動野のBetz(ベッツ)巨細胞とその投射路である脊髄錐体路の変性(図10-65図a),LMNである脳幹運動神経核細胞,脊髄前角細胞の変性脱落(図10-65図a)とその支配筋の神経原性萎縮を認める.残存運動ニューロンの細胞質内には,好酸性で数珠状に連なるBunina(ブニナ)小体と,TDP-43陽性封入体がみられる.Bunina小体はALS以外には出現せず,疾患特異性は高いが,その病的意義は不明である.TDP-43陽性封入体は,一部の家族性ALS(FALS)を除き,ほぼすべてのALS患者に認められ,病態に深く関与していると考えられている.
TDP-43はDNA/RNA結合蛋白で,核と細胞質の間を往来してRNAの制御を行っている.正常では主として核内に分布している(図10-65図b)が
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