診療支援
治療

2 球脊髄性筋萎縮症
spinal and bulbar muscular atrophy(SBMA)
勝野 雅央
(名古屋大学大学院教授・神経内科学)

疾患を疑うポイント

●成人男性における緩徐進行性の筋力低下,筋萎縮.

●高CK血症,軽度肝機能障害.

学びのポイント

●男性のみに生じる下位運動ニューロン疾患で,アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート配列の異常伸長が原因.

●緩徐進行性で,顔面,舌,四肢の線維束性収縮や筋萎縮を呈するが,上位運動ニューロン徴候はみられない.

●治療として黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニストであるリュープロレリン酢酸塩が薬事承認されている.

▼定義

‍ アンドロゲン受容体(AR)遺伝子内のCAGリピート数が38以上に延長している(正常では9~36).原則として男性のみに発症し,下位運動ニューロンと骨格筋変性に伴う随意筋の進行性筋力低下,筋萎縮をきたす.

▼病態

 SBMAの病因蛋白質である変異AR蛋白質がリガンドである男性ホルモン(テストステロン)の存在下で核内に凝集することで細胞変性を惹起する.

▼疫学

 頻度は人口10万人対1~2人で,わが国の患者数は2,000~2,500人と推定されている.伴性劣性遺伝形式をとるため,兄弟や母方のおじが発症していることがある.

▼診断

 主症状は,緩徐進行性の球麻痺および四肢筋力低下・筋萎縮である.深部腱反射は低下・消失し,病的反射は認めない.感覚障害として振動覚の低下を認めることがしばしばあるが,ほとんど下肢遠位に限局している.筋力低下は30~60歳程度に発症することが多く,発症年齢はCAGリピート配列数が大きいほど若年となる傾向がある.四肢筋力低下・筋萎縮に先行して,手指振戦や有痛性筋けいれんを認めることが多い.筋肉を収縮させたときに線維束性収縮が増強するcontraction fasciculationが舌(図10-67)や顔面,頸部,四肢で認められ,診断の参考になる.発作的に短時間の吸気困難を生じる喉頭けいれんも,本疾患に特徴的なエピソードとして聴取する価値がある.

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