診療支援
治療

3 脊髄性筋萎縮症
spinal muscular atrophy(SMA)
勝野 雅央
(名古屋大学大学院教授・神経内科学)

疾患を疑うポイント

●新生児~幼児の筋緊張低下,哺乳力・啼泣の減弱,低体重,運動発達遅延.

●進行性の筋力低下と,側弯症,嚥下・呼吸障害の合併.

学びのポイント

●SMAは乳児死亡最多の遺伝子疾患であり,下位運動ニューロン変性を特徴とし,60%を占める重症型は生後約1年で人工呼吸器装着あるいは死亡に至る.

●筋力,哺乳力および筋緊張の低下,舌の線維束性収縮,呼吸異常を呈する場合,本症を疑ったうえでの遺伝子検査が重要.

●運動機能および生命予後を大幅に改善する核酸医薬が開発されており,早期投与開始が重要.

▼定義

 SMAの95~98%はSMN1遺伝子の機能喪失型変異による常染色体劣性遺伝形式をとり,下位運動ニューロン変性に伴う随意筋の進行性筋力低下,筋萎縮をきたす.

▼病態

 SMAは脳幹や脊髄の下位運動ニューロンの進行性変性と脱落を病理学的特徴とし,多くが乳幼児期に発症し呼吸器合併症などにより予後不良である.SMN1遺伝子異常によりSMN蛋白質が不足し発症するが,下位運動ニューロン変性機序は解明されていない.ヒトは重複遺伝子であるSMN2遺伝子を有するが,選択的スプライシングによりSMN蛋白質を十分に産生することができず(図10-68)SMN1欠失を充足できないが,少量のSMN蛋白質を産生し病態修飾因子として働く.SMN2遺伝子数が多いほどSMAは軽症化する.

▼疫学

 SMA保因者率(SMN1遺伝子異常)は本邦において約1/50人,発症率は出生約1/11,000人で,通常人種,民族,性別にこれらの率に差がない.

▼分類

 発症年齢,最高獲得運動機能によりⅠ~Ⅳ型に分類される.

Ⅰ型

 幼児型であり,重症でWerdnig-Hoffmann(ウェルドニッヒ-ホフマン)病ともよばれる.生後0~6か月に筋緊張低下,哺乳困難で発症,運動発達が障害され,定頸,寝返り,坐位保持が困難である.多くは1歳を待てず

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