疾患を疑うポイント
●乳児期早期に精神運動発達遅滞,筋緊張低下,大頭症,痙性,運動失調が出現.
●けいれん,視神経萎縮の出現に注意.
学びのポイント
●乳児期の白質変性症の鑑別疾患の1つ.
▼定義
Canavan(カナバン)病は,アスパルトアシラーゼ(aspartoacylase:ASPA)の欠損によって,中枢神経系にN-アセチルアスパラギン酸(N-acetyl-aspartate:NAA)が蓄積する白質変性症の1つである.白質のミエリン鞘の空胞化が特徴的である.
▼病態
ASPA遺伝子変異による常染色体劣性遺伝の疾患である.ASPAはオリゴデンドロサイトの髄鞘化に必要な酢酸を生成する.この酢酸の生成低下が白質障害に関与している.乳児期早期に精神運動発達遅滞,筋緊張低下,大頭症,痙性,運動失調が出現する.その後,けいれん,視神経萎縮,睡眠障害,栄養障害が顕在化する.坐位や発語を獲得することなく呼吸器感染症などで死亡する例が多い.同一のASPA遺伝子変異をもつ家族内でも重症度が異なる場合もある.
▼疫学
アシュケナージ系ユダヤ人に多く発症する.ASPA遺伝子のGlu285Ala変異がほとんどのアシュケナージ系ユダヤ人症例にみられる.日本では非常にまれな疾患である.
▼分類
➊先天型/乳児型
新生児期に低緊張と経口摂取不良などで発症する.最も頻度が高く,重症型である.
➋若年型
4~5歳で発症し緩徐に構音障害やけいれんが進行する.先天型/乳児型,若年型はそれぞれ症状の重なりがある.
▼診断
「遺伝性白質疾患の診断・治療・研究システムの構築」班から診断基準が出されている(表10-43図).
▼治療・予後
現時点では根治療法はなく,抗てんかん薬などの対症療法が行われる.酢酸の補充療法,NAA軽減目的のリチウム療法などの治療が試みられたが,症状改善は認められなかった.緩徐進行性であるが,経腸栄養法などによ