疾患を疑うポイント
●中年~高齢者で発症し,起立性低血圧などの自律神経不全症が慢性進行性の経過を示す.
▼定義
1960年にShyとDragerが起立性低血圧を中核症状とする自律神経不全症を呈し,パーキンソニズム,小脳症候,錐体路症候,下位運動ニューロン徴候を伴った2症例を報告し,病理的には中枢神経に広範な変性所見を認めたことを報告した.当時は,起立性低血圧を中核症状とする自律神経不全症のうち糖尿病などの基礎疾患がないものは特発性起立性低血圧という用語でまとめられ,中枢神経病理は低酸素血症や血管障害の二次性変化であると理解されていた.彼らは中枢神経病理は一次性変性で,その結果として自律神経不全症が生じたと主張した.この報告は画期的で,一次性の神経変性に基づく自律神経不全というカテゴリーが成立したのであるが,自律神経不全が強調されていたため,その後はShy-Drager(シャイ-ドレーガー)症候群は自律神経不全を呈する症候群そのものとして使われ,混乱が生じていた.その後,多系統萎縮症の病理概念が確立し,1995年のPhoenix会議でオリーブ橋小脳萎縮症や線条体黒質変性症とともにその表現型の1つとして位置づけられた.
▼病態
病態の全体像は本章「多系統萎縮症」の項に譲る(→参照)が,自律神経不全の神経病理的原因は,交感神経節前神経の起始核である脊髄中間質外側核神経細胞と副交感神経節前神経起始核である迷走神経背側核,Onuf(オヌフ)核の神経変性であるとされている.この結果,起立性低血圧,発汗低下,胃腸管運動障害,排尿障害などが生じると考えられている.
▼診断
診断の基本は本章「多系統萎縮症」の項に譲る(→参照).起立性低血圧を主症状とする自律神経不全症が慢性に経過し,パーキンソニズムや小脳症候が乏しい場合は,自律神経不全を伴うParkinson(パーキンソン)病の初期やpure au
関連リンク
- 新臨床内科学 第10版/1 多系統萎縮症
- 新臨床内科学 第10版/4 大脳皮質基底核変性症
- 新臨床内科学 第10版/1 筋萎縮性側索硬化症
- 新臨床内科学 第10版/6 癌性ニューロパチー
- 新臨床内科学 第10版/2 汎自律神経障害
- 新臨床内科学 第10版/レヴィ小体型認知症の病理学:αSのプリオン仮説
- 今日の整形外科治療指針 第8版/脊髄小脳変性症
- 今日の整形外科治療指針 第8版/筋萎縮性側索硬化症
- 今日の診断指針 第8版/Parkinson症候群(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症を含む)
- 今日の診断指針 第8版/痙性対麻痺
- 今日の診断指針 第8版/神経変性疾患
- 今日の精神疾患治療指針 第2版/進行性皮質下膠症