診療支援
治療

1 甲状腺機能低下(粘液水腫)性ミオパチー
hypothyroid(myxedematous) myopathy
若山 吉弘
(昭和大学名誉教授)

疾患を疑うポイント

●甲状腺機能低下があること.

●近位筋優位の症状,myoedemaやmounding現象,腱反射弛緩相遅延などがみられる.

▼定義

 甲状腺機能低下による骨格筋組織の代謝障害に基づくミオパチーである.

▼病態

 甲状腺機能低下によりミトコンドリアでの酸素消費が減少し基礎代謝が低下する.骨格筋組織のグリコーゲン利用が障害され,その蓄積と空腹時低血糖が生じる.また皮膚や筋組織でのリソソーム蛋白分解酵素活性低下によりヒアルロン酸の分解が低下し粘液多糖類が蓄積する.脂肪代謝障害の結果,高コレステロール血症や骨格筋でのトリグリセリドの利用障害がみられる.腱反射弛緩相の遅延はmyosin ATPase活性低下と筋小胞体へのCa取り込み障害による.

▼疫学

 男女比は1:10程度と女性に多く,人種や年齢による易罹患性はない.

▼診断

 甲状腺機能低下症の症状や検査所見と,特有な筋症状や筋電図,筋生検所見で診断する.臨床症状は低体温,低換気,精神活動や心機能の低下,消化管の運動低下,乾燥肌,脱毛,粘液水腫様顔貌,浮腫状の皮膚,太い声,寒がり,粘液水腫による圧痕を残さないnon-pitting edemaなどである.筋症状では近位筋優位の筋力低下,緩徐運動性,筋硬直,筋痛,筋叩打や筋をつまむことにより生じる筋局所収縮(myoedema,mounding現象)や,頻度は少ないが筋けいれん,筋仮性肥大がみられる.血液検査では貧血,血清Na,Cl値の低下,血清AST,ALT,LDH,CK,総コレステロール値の上昇,T3,T4,FT3,FT4の低値とサイログロブリンや,TSH受容体抗体価の高値がみられる.TSH値は甲状腺機能不全では高値,下垂体や視床下部性では正常から低値である.胸部X線写真で心陰影の拡大と心エコーでは心囊液貯留所見が,心電図では洞性徐脈,低電位,QT延長,T波の平低化がみられる.筋

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