診療支援
治療

3 粘液水腫性昏睡
myxedematous coma
若山 吉弘
(昭和大学名誉教授)

疾患を疑うポイント

●甲状腺機能低下があること.

●中枢神経症状〔Japan Coma Scale(JCS)で10以上,Glasgow Coma Scale(GCS)で12以下〕.

▼定義

 長期間未治療の甲状腺機能低下症患者が,種々の誘因により神経系を含む呼吸・循環器系などの機能不全とともに進行性の意識障害を呈する重篤な病態.放置すれば死亡率の高い甲状腺機能低下症の急性合併症である.

▼病態

 橋本病に基づく原発性甲状腺機能低下症によるものが最多で萎縮性甲状腺炎,甲状腺手術後,放射線療法による甲状腺機能低下症によるものもある.昏睡の誘発促進因子として甲状腺機能低下症例が未治療か甲状腺ホルモン薬の服用を長期間中止または不適切な服用中に寒冷曝露や精神安定薬,麻酔薬などを使用したとき,また感染症,外傷,脳血管障害,心不全,消化管出血の併発時や低血糖,低Na血症,高炭酸ガス血症,アシドーシスなどの代謝異常を伴った場合が挙げられる.脳病理では浮腫がみられる.

▼疫学

 頻度はきわめてまれである.

▼診断

 診断基準として日本甲状腺学会から3次案が示され,必須項目は,①甲状腺機能低下と②中枢神経症状(JCSで10以上,GCSで12以下)である.意識障害は急速に進展する.症候・検査項目は低体温(35℃以下2点,35.7℃以下1点),低換気(PaCO2 48Torr以上,動脈血pH 7.35以下,または酸素投与のどれかあれば1点),循環不全(平均血圧75mmHg以下,脈拍数60/分以下,または昇圧薬投与のどれかで1点),代謝異常(血清Na 130mEq/L以下で1点)である.本症の確実例では必須の2項目と症候・検査項目を2点以上満たす.必須②と症候・検査項目2点以上や,必須①②と症候・検査項目1点それに必須①と軽度の意識障害JCS 1~3ないしGCS 13~14でも症候・検査項目2点以上あれば疑い例である.

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