疾患を疑うポイント
●インフルエンザに罹患した患児が神経症状(意識障害,けいれん,異常行動・言動)を呈した場合.
学びのポイント
●発熱後1日以内で急激に発症し,二次・三次医療機関で治療すべき疾患.
●神経症状として,意識障害,けいれん,異常行動・言動が重要.
▼定義
オルソミクソウイルス科に属するインフルエンザウイルス感染を契機に発生する急性脳症である.
▼病態
鼻粘膜に感染し,増殖したウイルスが,血行性あるいは嗅神経を介して中枢神経に侵入する.ただし,脳内でウイルスは検出されず,免疫系の過剰反応,高サイトカイン血症/脳症が関与するとされる.
▼疫学
主に5歳以下の乳幼児に発症し0~9歳が50~70%を占めるが,成人例も10~35%程度認められる.
▼診断
発症は急激で,80%は発熱後数時間から1日以内に意識障害,けいれん,異常行動・言動といった神経症状がみられる.すみやかに二次・三次医療機関に搬送すべきである(図10-110図).インフルエンザ抗原検査は発症初期に偽陰性のこともあり,その場合は再検査やPCR法ウイルス分離などで診断を確定する.診断基準を表10-64図に示す.鑑別疾患は熱性けいれん,中枢神経感染症など多岐にわたる.
▼治療
診断前から行う支持療法(全身管理,けいれん重積状態への対応,体温管理,脳圧亢進の対処,搬送),インフルエンザ脳症の確定例または疑い例と診断した段階で行う特異的治療(ノイラミニダーゼ阻害薬の投与やメチルプレドニゾロン・パルス療法,免疫グロブリン大量療法),および特殊療法(脳低体温療法,血漿交換療法など)を柱とする.
解熱にはアスピリン薬はReye(ライ)症候群発症の懸念,ジクロフェナクやメフェナム酸も死亡率上昇の可能性がありアセトアミノフェンを使用する.
▼予後
当初は急性期死亡率30%,後遺症例25%だったが,少しずつ改善している.