▼概念
エルシニア属菌(Yersinia spp.)は,腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌であり,Y. pestis,Y. enterocolitica,Y. pseudotuberculosisの3菌種が人獣共通感染症の原因となる.
Y. pestis(ペスト菌)は,ペストの原因菌である.本症は,重篤な侵襲性感染症であり,一類感染症に指定されている.世界では,アフリカ,ヒマラヤ山脈周辺,中国,モンゴル,ロッキー山脈周辺,アンデス山脈周辺などに発生している.1926年以降,日本での発生はない.
Y. enterocoliticaとY. pseudotuberculosisは,小児に急性腸炎を起こす.
▼病態
➊ペスト
ペスト菌は,森林のペスト菌常在地域のげっ歯類の感染症である.ネズミなどを吸血したノミの咬傷やエアロゾルによって人に感染する.
➋Y. enterocolitica感染症,Y. pseudotuberculosis感染症
イヌやブタの糞便や汚染された食肉,牛乳,水などの飲食物から感染する.回盲部の腸炎や腸間膜リンパ節炎を起こす.低温でも増殖するので,冷蔵庫内の食材からも感染する.後者は,小児が井戸水や湧き水から感染する泉熱の原因である.
▼臨床所見
➊ペスト
腺ペスト,敗血症ペストと肺ペストの3病型があり,適切な治療を受けなければ死亡する重篤な全身感染症である.
腺ペストは,ヒトペストの8~9割を占める.ノミの咬傷や感染動物との接触から2~7日間の潜伏期ののち,侵入部の所属リンパ節の膿瘍が形成される.突然の高熱,悪寒,戦慄,頭痛や倦怠感で発症し,リンパ節は卵大に腫大して自壊する.そののち,肝,脾や全身に播種し,発症後3~4日で髄膜炎や敗血症をきたして,1週間以内に死亡する.
敗血症ペストは,ヒトペストの1割に生じ,局所症状を伴わず敗血症を起こす.播種性血管内凝固症候群や
関連リンク
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- 臨床検査データブック 2023-2024/腸チフス
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