診療支援
治療

(1)ジギタリス中毒
digitalis intoxication
杉田 学
(順天堂大学大学院教授・救急災害医学)

▼概説

 ジギタリスはステロイド骨格をもつ強心配糖体である.慢性心不全,心房細動などの治療に用いられているため,治療中の患者に起こる慢性中毒と,急性中毒の両方が問題となる.

▼毒性のメカニズム

 ジギタリスは細胞膜のNa/K-ATPaseに細胞外から結合し,酵素活性を抑制することによりATP依存性のNa/Kポンプを阻害する.その結果細胞内へのKイオン流入と細胞外へのNaイオンの流出を抑制し,高カリウム血症を起こす.臨床的に使用されることの多いジギタリス製剤であるジゴキシンは分布容積が大きく,蛋白結合率は低い.

▼中毒症状

 高カリウム血症,徐脈や房室ブロックなどの不整脈,それらにより引き起こされる低血圧が問題になる.その他,心室性不整脈,悪心嘔吐などの消化器症状を呈する.

▼治療

全身管理

 高カリウム血症の治療を優先する.重炭酸ナトリウムやグルコース-インスリン療法は,血中カリウムを細胞内に移動するため効果発現が早い.ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは便中へのカリウム排泄を促進する.カルシウム投与は高カリウム血症に対する最優先の治療だが,細胞内のカルシウムイオンを上昇させ心室性不整脈のリスクを高めるために,ジギタリス中毒に伴う高カリウム血症では禁忌である.高カリウム血症が続く場合には血液透析を考慮する.循環動態が維持できなければ経皮的心肺補助(VA-ECMO)を導入する.

吸収の阻害

 内服1時間以内では胃洗浄,活性炭を考慮する.

排泄の促進

 ジゴキシンは分布容積が大きいため,血液透析は血中濃度を下げるための適応はなく,高カリウム血症に対してのみ行う.

解毒薬,拮抗薬

 Fab fragments of digoxin-specific antibodies(Fab抗体)はジゴキシンに対して特異的な親和性をもち,解毒薬,拮抗薬として使用される.Fab抗体は細胞外の遊離ジゴキシ

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