診療支援
治療

4 有機リン
organophosphate
廣瀬 保夫
(新潟市民病院・救命救急・循環器病・脳卒中センター・センター長)

▼概説

 有機リン系農薬は主に殺虫剤として使用され,ホームセンターなどでも容易に入手可能で,急性中毒の原因となる例も多い.有機リン剤にはさまざまな種類があるが,わが国では現在,マラチオン,ジクロルボス,フェニトロチオンなどが使用されている.有機リン剤を摂取するとアセチルコリンエステラーゼ(acetylcholine esterase:AChE)が阻害され,神経伝達が障害されることにより,副交感神経刺激症状を主体としたさまざまな症状を呈する.中間症候群遅発性神経障害などの特徴的な病態にも注意が必要である.

 神経剤であるサリンやVXなどは,化学兵器として合成された有機リン系の毒物である.基本的な病態は農薬の場合と同様であるが,毒性はきわめて強く少量でも致死的となる.わが国では,松本サリン事件(1994年),地下鉄サリン事件(1995年)で,一般市民に向けたテロで化学兵器が使用され,大きな被害を出した不幸な歴史がある.

▼毒性のメカニズム

 アセチルコリン(ACh)は,副交感神経節前・節後線維,交感神経節前線維,運動神経神経筋接合部,中枢神経系において神経伝達物質として作用している.通常はAChはAChEによってすみやかにコリンと酢酸に分解される.有機リン剤を服毒すると,末梢神経だけでなく血液脳関門を通過し中枢神経にも侵入し,AChEの活性を阻害する.そのためAChが分解されずに過剰に蓄積する.その結果,アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体,ニコチン受容体)が過剰に刺激され,ムスカリン様症状,ニコチン様症状,中枢神経症状が出現する(図14-6)

 毒物への曝露歴があり,特徴的なコリン作動性症状がみられ,血液検査で血清コリンエステラーゼ値が低下していれば,本中毒の可能性はきわめて高くなる.

▼中毒症状

 有機リン中毒にみられる症状は,急性コリン作動性症候群中間症候群遅発性神経障害

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