【疾患概念】
嫌気性菌とは,酸素のない条件下で発育する細菌群である.ヒトの粘膜(口腔内,腸管,腟)の常在菌叢を構成する主要な細菌群であり,粘膜の破綻などから内因性感染をきたす.また,土壌などの環境中にも存在し,外因性感染をきたすことがある.
嫌気性菌感染症は膿瘍形成のみならず組織壊死を引き起こす.嫌気性菌のなかには組織を破壊する酵素や,麻痺性毒素を産生するものもあり,重症軟部組織感染症をきたす.
【病型(表4-1図)】
(1)ガス壊疽
ガス産生菌による筋肉・筋膜の壊死性軟部組織感染症の総称である.ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)によるクロストリジウム性ガス壊疽と非クロストリジウム性ガス壊疽に大別される.
クロストリジウム性ガス壊疽は狭義のガス壊疽とされている.ウェルシュ菌は蛋白毒素を産生し,筋壊死や溶血活性を有し,急速に筋壊死が進行する.非クロストリジウム性ガス壊疽は混合感染をきたし,皮膚~脂肪組織や浅筋膜を侵す壊死性筋膜炎を呈することが多い.
(2)破傷風
破傷風菌(Clostridium tetani)は芽胞の形で広く土壌中に常在し,外傷を契機に体内に侵入する.破傷風菌が産生する神経毒素によって中枢神経の抑制が効かなくなり,硬直性痙攣などの激しい全身症状をきたす致死率の高い感染症である.
【臨床症状と病態】
(1)クロストリジウム性ガス壊疽
土壌汚染のある外傷後24~72時間後に発症する.発赤・腫脹・熱感が急速に悪化し,皮膚や皮下組織,筋組織の壊死により著しい疼痛が生じる.感染の進行に伴いショックや多臓器不全,播種性血管内凝固症候群(DIC)をきたし死に至る.
(2)非クロストリジウム性ガス壊疽
発赤・腫脹・熱感から,水疱・血疱,潰瘍,紫斑を形成し急速に壊死が進行・拡大する.感染の進行に伴い全身状態の悪化を招き,ショックや多臓器不全,DICから死に至る
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