【疾患概念】
細胞内小器官の1つであるリソソームには50種類以上の加水分解酵素が存在し,細胞内のさまざまな物質を分解して細胞の恒常性を維持する働きがある.ムコ多糖症は,リソソーム内でムコ多糖の分解にかかわる酵素の異常を原因とする,先天代謝異常症である.ムコ多糖はアミノ糖とウロン酸から構成される多糖体であり,デルマタン硫酸(DS),ヘパラン硫酸(HS),ケラタン硫酸(KS),コンドロイチン硫酸(CS),ヒアルロン酸などに分類される.これらのムコ多糖は生体内では全臓器に広く分布しており,特に結合組織,軟骨,神経組織などに多く存在する.ムコ多糖症ではこれらの組織に未分解のムコ多糖が過剰蓄積することにより臓器障害が引き起こされる.DSの過剰蓄積は,骨・関節・心弁膜症状,HSは中枢神経症状,KSは軟骨異常と関連する傾向がみられる.
【病態】
ムコ多糖症は欠損酵素と代謝経路により7型に分類されており,それぞれの病型において蓄積するムコ多糖の種類や障害される組織および臓器が違ってくるため,臨床像や予後は異なっている(表7-6図).また同一の病型の患者間でも,残存する酵素活性の違いにより,症状の出現時期や進行速度などの重症度には個人差が生じる.世界的にはムコ多糖症の発症頻度は,出生10万人に1人程度と報告されている.わが国での頻度は出生30万~40万人に1人とされ,患者数は300人前後である.ムコ多糖症患者全体のうち約6割がⅡ型(Hunter症候群)である.ムコ多糖症は遺伝性疾患であり,Ⅱ型はX連鎖性劣性遺伝,他は常染色体劣性遺伝である.
①Ⅰ型(Hurler症候群)とⅡ型はともにDSとHSの過剰蓄積が生じ,比較的類似した病態をとり,低身長,特徴的な顔貌,関節拘縮,骨変形,肝脾腫,心弁膜症,臍・鼡径ヘルニア,反復性中耳炎,精神運動発達遅滞などが認められる.Ⅰ型では角膜混濁も認める.重症例では
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