1.はじめに
肘およびその周辺に疼痛を生ずる疾患は主に肘関節を構成する骨,軟骨,靱帯,関節包に起因するものと,筋・腱および腱付着部,神経などの関節外組織に起因するものがある.診断する際には,このことを念頭におきながら問診,視診,触診,徒手検査,画像検査の順に進める.
2.診断手順
【1】問診
始めに患者の主訴を確認する.疼痛を主訴とする場合は部位や性状,発生の仕方(安静時痛,運動時痛)を聴取する.現病歴では外傷や肘への過度の負荷などの誘因の有無や同症状に対する治療歴の有無について確認する.また年齢や性別,利き手,既往歴などの一般的な事項のほかに職歴,スポーツ歴の聴取も必要である.
【2】視診
安静時の肢位や腫脹,変形の有無を確認する.びまん性腫脹の場合は骨折や内・外側側副靱帯同時損傷,関節リウマチ,変形性関節症に伴う関節炎などを疑う.また内・外側に限局した腫脹の場合は内・外側単独の側副靱帯損傷が疑われ,肘頭に限局する場合は肘頭滑液包炎を考える.肘関節は前腕回外位,肘関節伸展位における上腕と前腕の長軸がなす角度(carrying angle)が生理的に外反を呈しているが,幼・小児期の上腕骨外顆骨折や上腕骨顆上骨折後の変形治癒や偽関節により外反肘および内反肘を呈していることがある.
【3】触診
触診は肘に痛みを生ずる疾患を診断するうえで最も重要であり,病変の推定に有用である.
(1)皮膚温
熱感があり,発赤を伴う場合は化膿性関節炎や局所の感染を疑う.
(2)圧痛
各部位から推定される疾患(骨折を除く)を以下に列挙する.
①肘窩:上腕二頭筋遠位腱皮下断裂,橈骨神経管症候群
②上腕骨外側上顆:上腕骨外側上顆炎
③腕橈関節:関節リウマチ,変形性関節症,関節炎,滑膜ひだ障害,弾発肘,外側側副靱帯損傷(後外側回旋不安定症),上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
④腕尺関節:関節リウマチ,変形性関節症,関節炎
⑤上腕骨内側
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