【疾患概念】
通常骨傷のない,あっても軽微な肘関節単純脱臼と,骨折を伴って複合肘関節不安定症(他稿参照)を呈するものまでさまざまである.前者の90%以上が後方脱臼であり,以下単純後方脱臼について述べる.
【臨床症状,病態】
通常,肘関節過伸展位で手をつき,肘頭が肘頭窩に衝突固定され,さらに肘の伸展を強制されて脱臼する(図13-3図).この場合,内側側副靱帯(medial collateral ligament;MCL)損傷を合併する.また軽度屈曲位で手をつき,肘関節に外反,回外,軸圧の複合外力がかかり,MCLは断裂せず外側側副靱帯(lateral collateral ligament;LCL)複合体が断裂して,後外側脱臼をきたす機序もある.
問診で聞くべきこと
受傷機転,受傷肢位を聞き出せれば,診断の補助となる.
必要な検査とその所見
単純X線像で診断は確定する.また,肘関節以遠の循環障害,神経障害の有無を診察する.
治療方針
脱臼の整復は受傷早期に行う.整復後肘関節30°まで伸展しても再脱臼をきたさず安定していれば保存療法とする.側副靱帯損傷は,近接する前腕伸筋および屈筋付着部損傷を合併し不安定性が強い場合は,修復術の適応となる.ストレス検査,MRI,エコーなどで判断する.
保存療法
約1~2週間のギプスシーネ固定の後,自動運動を開始する.その際,特に肩屈曲位での上肢自重による肘関節内反,回内ストレスはLCL修復の妨げになるため,その肢位を避けるようにする.
手術療法
陳旧例は観血的整復が必要となる.側副靱帯修復は通常スーチャーアンカーを使用する.
患者説明のポイント
関節拘縮が起こりやすいため,保存療法,手術療法いずれにおいてもリハビリテーションが重要であることを説明する.
リハビリテーションのポイント
関節拘縮を予防するため,外固定は短めとし比較的早期より自動運動を開始する.
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