診療支援
治療

高圧注入損傷
High pressure injection injury
池口 良輔
(京都大学医学部附属病院リハビリテーション科 准教授)

【疾患概念】

 塗料,グリース,軽油,ガソリンなどが,ペイントガンなどの高圧噴射により,体内へ注入されることに起因する損傷である.注入部の創は,受傷直後は軽微のように見えるが,内部損傷は重度な場合が多い.特に塗料,有機溶剤は非常に有毒で,外科的治療の遅れは切断または死亡につながる.水または空気の注入でも,コンパートメント症候群を引き起こす.

【臨床症状】

 注入直後は無症状であるが,数時間後に腫脹,知覚低下,血流不全を引き起こし,注入された液体に対して強烈な炎症が引き起こされ,激痛を伴うようになる.


問診で聞くべきこと

 受傷時間,受傷形態,注入された液体の種類,注入器械の種類を詳細に聴き出す.喫煙歴,飲酒歴,抗凝固薬服用の有無,糖尿病など内科的疾患の有無などについて聴取する.


必要な検査とその所見

単純X線検査:注入された溶剤の広がりが認められる場合もある.

CT:単純X線検査と同様,溶剤の広がりを把握できる場合がある.また骨折の有無を確認しておく.

血液検査,胸部X線検査,心電図:塗料や有機溶剤により,全身性の中毒症状によりショック状態になる可能性があるので,全身状態を把握しておく.


診断のポイント

 受傷形態の問診と創の視診により,高圧注入損傷の可能性を念頭におくことが重要である.


専門病院へのコンサルテーション

 複数回の手術,軟部組織の再建と手指拘縮の解離など,専門的な治療が必要になる場合だけでなく,急性期には全身性の中毒症状によりショック状態になる場合があるので,全身管理のできる,かつ,手外科医の勤務する,より高度の救急病院へ紹介する.


治療方針

 保存療法は適応にならない.できるだけ早く,切開,除圧,デブリドマンと原因となる塗料や有機溶剤の除去が必要である.創は一見小さく軽微のように見えるが,内部損傷は重度な場合が多く,汚染が疑わしい部位は躊躇なく開放し,汚染組織はすべてデブリドマン

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