【疾患概念】
脊髄梗塞の1つで対麻痺(頚髄では四肢麻痺)・解離性知覚障害・膀胱直腸障害を呈する.脊髄栄養血管の1つである前脊髄動脈の血行障害によって生じる.前脊髄動脈は脊髄横断面の腹側2/3を栄養し,後索を除く白質(前索,側索)および中心灰白質のすべてを潅流している.このため前脊髄動脈の障害により,障害部位以下の運動麻痺と解離性感覚障害が起こる.すなわち,温痛覚および疎な触覚(脊髄視床路)が障害されるが,深部感覚(後索)が保たれる.
脊髄梗塞にはこのほか,後脊髄動脈の障害による後脊髄動脈症候群(後索・後角の障害が特徴),横断性梗塞,片側性のBrown-Séquard症候群がある.これらを合わせても脊髄梗塞は脳梗塞の1/50~1/100の発生率とされ,非常にまれな疾患である.脳梗塞と異なり,動脈硬化や不整脈といった基礎疾患が明らかな例はむしろ少なく,多くは原因不明である.
【臨床症状】
急性発症の背部痛と対麻痺(頚髄病変では四肢麻痺),しびれ,排尿障害で,発症から2日以内にピークに達する.特に誘因なく発症することが多い.麻痺重症度はFrankel A~Dまでさまざまである.
必要な検査とその所見
MRI T2強調像で脊髄実質の虚血部位が高信号を呈する.横断像で脊髄前方1/3~2/3に及び,白質・灰白質の区別なく信号変化をきたす.矢状断像では頭尾側数椎体に索状の信号変化が及ぶことが多い(図17-10図).
鑑別診断で想起すべき疾患
大動脈解離(急性発症の背部痛の原因として除外する必要あり),頚椎・胸椎椎間板ヘルニアおよび転移性脊椎腫瘍(脊髄が前方から圧迫されることで同様の臨床症状を呈する).
診断のポイント
①急性発症の対麻痺(頚髄病変では四肢麻痺).
②解離性感覚障害(温痛覚が障害されるが,深部感覚=受動関節覚・振動覚が保たれる).
③MRIで上記所見および鑑別疾患の除外.
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