診療支援
治療

低髄液圧症候群
Intracranial hypotension
佐藤 慎哉
(山形大学医学部総合医学教育センター 教授)

【疾患概念】

 本症候群は,古くから腰椎穿刺後に穿刺部から髄液が漏出し,起立時に脳の下垂による血管や脳神経の牽引頭痛を呈する症候群としてよく知られていた.他の原因として,脊髄脊椎外傷や髄膜の嚢胞などがあるが,特に誘因なく特発性とされる症例もある.低髄液圧による頭痛は,1988年の国際頭痛分類(初版)から記載されている.本症候群と同様の症状を呈しながら髄液圧が正常範囲内の症例も報告され,脳脊髄液減少症と呼ばれることもあるが,国際頭痛分類やICD(国際疾病分類)では採用されていない.

 わが国では,交通外傷による頭頚部外傷と低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症の関係が社会問題化したため,2007年に厚生労働科学研究費補助金「脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する研究班」〔研究代表者:嘉山孝正 山形大学教授(当時)〕が組織された.本研究班では本症に関連する8学会(日本脳神経外科学会,日本整形外科学会,日本神経学会,日本頭痛学会,日本脳神経外傷学会,日本脊髄外科学会,日本脊椎脊髄病学会,日本脊髄障害医学会)が協力,低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症の中核を成すのは「脳脊髄液の漏出」であると規定し,2011年に「脳脊髄液漏出症の画像診断基準」を公表し,脳脊髄液漏出症に対して硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)が保険適用となった.そのため現在は,低髄液圧症候群のうち漏出が明らかなものに対して脳脊髄液漏出症という名称も広く使われている.

【臨床症状】

 起立性頭痛(頭痛)が最も多く,患者の9割以上が訴える.その他,頻度の高い症状としては,めまい,視機能障害,倦怠感(易疲労感)などがある.これらの症状は座位や起立位を続けることで短時間に悪化することが多いのが特徴である.


問診で聞くべきこと

 頭痛の有無と体位による変化については必ず聞く必要がある.国際頭痛分類第2版までは,症状が変化する時間を15分以内とし

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