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治療

トピックス iPS細胞を用いた頚髄損傷治療
鈴木 秀典
(山口大学大学院 講師)

 急性期から亜急性期にかけての脊髄損傷治療に対する基礎研究に関しては,ある一定の成果をすでに上げることができ,世界中で臨床治験が進んでいる状況である.本稿では,iPS細胞を用いた頚髄損傷治療の現状と問題点を述べ,基礎研究を含めた世界情勢などについて解説する.

 ある種の体細胞をリプログラミングしてiPS細胞を作成するわけであるが,もととなる細胞種もさまざまである.皮膚の線維芽細胞,ケラチノサイト,臍帯血細胞,骨髄細胞,脂肪細胞などがその代表例である.また実際の移植時に使用される細胞も,iPS細胞そのものではなく,iPSから誘導された神経前駆細胞,ニューロン,オリゴデンドロサイト,アストロサイト,間質血管細胞などが報告されている.こうした細胞移植により,脊髄損傷モデルでの機能回復が多数報告されている.

 iPS由来神経系細胞移植による機能回復のメカニズムにも,液性因子の分泌による神経保護作用,再髄鞘化による軸索機能の改善,新たなシナプス形成による神経ネットワークの再建などが報告されている.各治療コンセプトに基づいて,種々の誘導細胞移植が行われている.

 iPS細胞は未分化細胞であるため,造腫瘍性の問題はいまだ完全には解決しきれない問題として存在する.しかし,Notchシグナル阻害薬や,細胞誘導技術の工夫,未分化細胞混入リスクの低減,さらには腫瘍化したことが判明した際に,細胞のアポトーシスを誘導するための自殺遺伝子の導入などさまざまな試みが行われている.完全とは言い切れないが,臨床応用での安全性が担保できる程度の成果が得られたと判断され,国内では臨床治験が開始されている.

 将来的には,慢性期の脊髄損傷もこうした細胞移植療法の治療ターゲットと考えられている.動物実験モデルではあるが,コンドロイチナーゼABCなどの瘢痕溶解薬を用いることで,脊髄微小環境を変化させ,iPS由来細胞移植に最適

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