診療支援
治療

胸部脊髄障害のとらえ方/診断手順
Diagnosis of thoracic myelopathy
川口 善治
(富山大学 教授)

【概説】

 胸椎部における脊髄症で下肢のしびれで発症することが多く,次第に下肢の麻痺が出現し,病状が進行すると対麻痺(paraplegia)に至ることがある.胸髄症を呈する病態としては,①胸髄が外側から圧迫されるもの(脊髄外病変)と②胸髄自身に病変をきたすもの(脊髄内病変)の2つに分かれる.頚椎疾患,腰椎疾患に比較して頻度は高くはないが,本障害をきたす疾患を念頭に置いて診察を行わないと脊髄障害が進行し,非可逆性になることがあるため注意を要する.

【病因】

 上記の①,②に当てはまる疾患を挙げる(図20-4).

胸髄症をきたす脊髄外病変:胸椎椎間板ヘルニア,変形性胸椎症,胸椎後縦靱帯骨化症,胸椎黄色靱帯骨化症,椎体骨折による脊髄圧迫,脊椎腫瘍(原発性,転移性),化膿性脊椎炎,結核性脊椎炎,硬膜外血腫,硬膜外腫瘍(悪性リンパ腫など),硬膜内髄外腫瘍(髄膜腫,神経鞘腫など)など

胸髄症をきたす脊髄内病変:脊髄炎,多発性硬化症,サルコイドーシス,脊髄髄内腫瘍(良性,悪性)など

 主に外科手術の適応になるものは①に挙げた疾患および②の良性脊髄髄内腫瘍である.②に挙げた他の多くの疾患は神経内科で治療されることが多い.


臨床症状と神経学的所見

 障害脊髄レベル以下に症状が起こる.下肢のしびれが初発症状のことが多く,次第に下肢の運動障害が進行し歩行障害をきたす.歩行障害は足が前にスムーズに出ない,躓きやすいなどの痙性歩行が特徴的である.また排尿障害がみられることもある.骨粗鬆症を伴う高齢者では転倒時に胸椎骨折が起こり,その後遅発性に下肢の神経障害を呈することがある.一般に腫瘍性病変では漸時増悪を示す経過をたどるが,変性疾患では症状が増悪寛解を繰り返し緩徐に進行する.また脊椎腫瘍,脊椎炎,椎間板ヘルニア,硬膜外血腫は背部痛を伴うことが多く,椎間板ヘルニアや硬膜内髄外腫瘍では片側胸部に帯状痛が生じること

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