【疾患概念】
60歳以上における腰椎椎間板ヘルニアの発生頻度は,全ヘルニア症例の1.8~3.8%と報告されており,青壮年期の88.4~95.1%に比して低い.臨床的特徴としては,加齢性退行性変化が加わるため,腰椎椎間板ヘルニアに加えて腰部脊柱管狭窄が症状に関与する,combined stenosisが臨床的に多く認められる.強い下肢痛や筋力低下などの片側性の神経根症状を呈し,画像的にもヘルニアとしての特徴的な所見を認め,ヘルニアが現症の主たる原因と考えられる場合に腰椎椎間板ヘルニアと診断する.他の特徴としては,後屈制限,Kemp徴候,歩行時の疼痛および下肢伸展挙上(straight leg raising;SLR)テストの陽性率の減少が挙げられる.組織学的には,髄核や髄核と線維輪のタイプから,加齢に伴い軟骨終板を含むタイプが多くなる.
罹患椎間としては通常L4/5,次いでL5/S1に多いが,高齢者ではL3/4またはより頭側における発生頻度が若年者,成人に比べて高いのが特徴である.
問診で聞くべきこと
安静時痛・夜間痛の有無や,既往歴で糖尿病やがんの既往,ステロイドの内服などについて確認する.転移性脊椎腫瘍や化膿性脊椎炎,骨粗鬆症性椎体骨折などを見逃さないためである.これらの疾患は高齢者に多く,腰痛に加えて神経根障害をきたす場合があり,椎間板ヘルニアに似た症状を呈することがある.また,外傷の有無についても確認する.高齢者の転倒では,圧迫骨折や仙骨の脆弱性骨折による腰下肢痛をきたすことがあり,鑑別に入れておく必要がある.必要に応じて画像検査を追加する.
必要な検査とその所見
上記の問診と身体診察にて,病態を推察することが重要である.その後,身体所見を裏付けるような画像所見があるかどうかを確認する.
(1)単純X線
加齢退行性変化,いわゆる脊椎症性変化が認められる症例が多いが,症状とは