診療支援
治療

膝関節脱臼
Patellar dislocation
石橋 恭之
(弘前大学大学院 教授)

【疾患概念】

 膝関節脱臼は,交通事故や高所からの転落といった高エネルギー外傷のほか,スポーツ外傷などで生じる.非常にまれな外傷とされているが,受傷時に脱臼したとしてもその多くは自然整復されることから,実際の発生率はさらに高いものと考えられる.単純X線で脱臼を認めなくても,多方向への不安定性を認める場合には,脱臼が生じた可能性を常に念頭におく必要がある.脱臼にはしばしば膝窩動脈損傷を伴うため,下肢の血流評価は必須である.

【膝関節脱臼の分類】

 大腿骨に対する脛骨近位端の転位方向により,前方,後方,内方,外方,回旋脱臼の5型に分類される(図26-4).前方脱臼が最も頻度が高く約40%に生じ,次いで後方脱臼が約30%に,以下,側方脱臼,回旋脱臼の順で生じる.転位位置による分類のほか,損傷された靱帯による解剖学的分類がある(複合靱帯損傷の項表26-2参照).

【臨床所見】

 特徴的な変形と運動制限・腫脹,疼痛を認めるが,自然整復された場合には明らかな変形を認めないため注意が必要である.神経損傷の多くは腓骨神経麻痺であり,その場合,下腿外側から足背の感覚障害と足関節や足指背屈が不能となる.下肢血流障害を生じると,しびれ感や感覚低下,腫脹を生じる.膝窩動脈損傷には完全断裂と内膜損傷があり,完全断裂では直後より著明な下肢の腫脹を伴う.内膜損傷では血栓を形成し閉塞するため,徐々にしびれ感を訴え,下腿全体の感覚障害が生じる.このため慎重な経過観察が必要であり,受傷後48~72時間は下肢の血流チェックを行う.


診断のポイント

 膝関節の特徴的な変形を認めれば診断は比較的容易であるが,膝脱臼そのものより,膝窩動脈損傷を含めた合併症の検索が重要である.


専門医のコンサルテーション

 膝関節脱臼の患者は膝窩動脈損傷の可能性があるので,早期に専門病院にコンサルテーションするほうが望ましい.血管閉塞が生じた場

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