診断のチェックポイント
●定義
❶咳とは:短い吸気に引き続いて声門の閉塞が起こり,胸腔内圧が上昇し,ついで声門が開いて強い空気の流れとともに気道内容が押し出される現象である。本来は気道に侵入する異物や病原体などに対する生体防御反応であるが,過剰・病的な咳は患者の苦痛,消耗をもたらす。
❷痰の有無による分類:病的な咳は痰を伴わない乾性咳嗽と痰を伴う湿性咳嗽に分類される。前者は種々の機械的・化学的刺激などによって生じる咳感受性亢進や気道攣縮で生じるのに対し,後者は痰による機械的刺激が主体であり(痰を出すための咳),咳のそのものの抑制よりも痰の制御が治療の主眼となる。
❸持続期間による分類:咳は持続期間によっても分類され,3週以内の咳は急性咳嗽,8週以上持続する咳は慢性咳嗽,中間の3~8週の咳は遷延性咳嗽とよぶ(図1図)。急性咳嗽においては咳以外の随伴症状や身体所見(発熱,膿性痰,血痰,呼吸困難,喘鳴,体重減少,浮腫など),胸部X線などの検査所見(後述)から,肺炎,肺結核,喘息,肺癌,間質性肺炎,心不全,肺血栓塞栓症など,重篤にもなりうる疾患を見逃さないように留意する(図2図)。
❹咳受容体:喉頭,下気道のほか,下部食道,胸膜,心外膜,外耳などにも存在するため,上下気道以外への刺激によっても咳は生じうる(図3図)。
【1】病歴
❶急性咳嗽:喘息を見落とさないために,特に喘息が悪化する夜間や早朝の喘鳴症状の有無を丁寧に問診する。咳に対する対策を求めている患者自らが合併する喘鳴の存在を訴えることは少ないため,積極的に聞き出す必要がある。
❷慢性咳嗽:❶と同様に,喘息を見落とさないように丁寧に問診する。各疾患に特徴的な病歴(表1図)を熟知して鑑別を進める必要がある。通常,副鼻腔気管支症候群,タバコ気管支炎は湿性咳嗽,その他は乾性咳嗽を呈するが,例外もあるので注意する。
【2】身体所見:肺の聴診においては