診療支援
診断

食欲不振
Anorexia
石原 俊治
(島根大学教授・内科学講座第二)

診断のチェックポイント

定義:食欲とは食物を摂取したいという生理的欲求である。「食欲不振」とはその欲求が低下あるいは消失している状態である。

【1】病歴

❶症状の出現時期と期間

症状がどの程度の期間持続しているかを把握する。

短期であれば,急性感染症,暴飲暴食,一過性のストレス,新規薬物の開始など,原因の同定に至りやすい場合もある。

長期的な症状であれば,慢性炎症,機能性消化管障害,悪性腫瘍,精神的ストレスなど,さまざまな観点から病歴を聴取する。

❷食欲不振の程度

健常時に比べてどの程度食事摂取量が低下しているかを見極める。摂取量が徐々に低下するようなケースでは,症状が長期にわたることから体重減少に至る。

量的な減少だけでなく,嗜好の変化や特定の食事(液体あるいは固体:食道疾患や消化管狭窄の有無)の摂取困難の場合もあり,診断に役立つ情報として問診時には必ず聴取の必要がある。

❸既往歴・現在治療中の疾患の把握

新規発症の観点だけでなく,既往症や治療中の疾患との関連など,病歴については詳細な問診が必要となる。

特に治療薬については,長期服用による副作用,あるいは新規に開始された薬剤の短期的副作用としての食欲不振は常に考慮されるべきである(薬剤性あるいは中毒性)。

❹症状:嘔気・嘔吐,腹痛,腹部膨満感,下痢や便秘,血便などの消化器疾患と関連する症状以外に,発熱,頭痛,めまい,咳嗽・呼吸苦,動悸,不眠・不安など他疾患も念頭において多角的に症状を確認する。

【2】身体所見

❶視診:貧血(→消化管出血,血液疾患),黄疸(→肝疾患,閉塞性黄疸),皮膚の乾燥や皮疹(→膠原病),色素沈着(→内分泌代謝疾患),静脈怒張・浮腫(→心不全,肝硬変,ネフローゼ症候群)などを確認する。

❷触診:圧痛や腹膜刺激症状(→腸管や腹腔内炎症),背部叩打痛(→尿路系炎症),腹部腫瘤触知(→悪性腫瘍),腹水(→肝疾患,悪性腫瘍)

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