診断のポイント
【1】数か月以上,腹痛と便通異常(下痢または便秘)があり,生活の質が障害。排便によって軽快する腹痛である。
【2】器質的異常を疑う身体所見(発熱,血便)は認めない。
【3】通常の臨床検査,画像検査(下部消化管内視鏡検査など)で異常を認めない。
【4】不安や心理的ストレスで症状が増悪する。
【5】診断は症候に基づいた「Rome Ⅳ診断基準」(表1図)がスタンダードであるが,各種検査での器質的疾患の除外と医療面接からの積極的なIBSの診断の両者を並行して行いたい。
症候の診かた
【1】下痢症状と便秘症状が主体であるものもあるが,いわゆる機能性下痢や機能性便秘との違いは腹痛を伴うか否かである。
【2】腹痛を伴う便通異常をとらえる。
【3】腹痛は急性腹症と誤るほど強いものから,自制内という程度のものまであるが,排便に伴って軽快することをとらえる。
【4】身体症状は不安,緊張,心理的ストレスにより増悪するという特徴をもつ。トイレのない街中への外出やバスなどへの乗車ができないほど2次的不安が強くなっている場合も多い。
【5】睡眠中など意識が自身の体に向かないときには症状がない。
検査所見とその読みかた
【1】通常一般検査:CRP陽性,白血球数増多などの炎症所見をきたすことはない。貧血,低蛋白血症を認めることもない。また,便潜血反応も陽性を呈することはない。電解質をはじめとする血液生化学検査で異常を示すことはない。
【2】注腸造影,大腸内視鏡:形態学的異常は全く認めないが,施行の際に少量の送気にて激しい痛みを訴える場合は痛覚過敏として本症診断の参考になる。
確定診断の決め手
【1】バイタルサインが異常なく,一般臨床検査と下部消化管内視鏡検査で異常を認めないが,慢性的な排便異常を伴った腹痛の病歴。
【2】世界的に症候に基づいた「RomeⅣ診断基準」で診断するが,あくまで症状を説明できる器質的疾患の除外が重要