診療支援
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■寄生動物疾患の最近の動向
太田 伸生
(鈴鹿医療科学大学教授・寄生虫病学)


 日本国内で発生する寄生虫疾患は,食品媒介性寄生虫症,人獣共通感染症,および輸入寄生虫症のカテゴリーに大別できる。診断法の整備が十分に進んでいないケースもあり,確定診断に困難を伴うものも多いため寄生虫感染症診断には問診が今日なお重要である。それぞれの原因寄生虫の生活史や疫学を理解しておくことが望まれる。

 食品媒介性寄生虫症として,特にアニサキス症は報告事例が急増し,2018(平成30)年には食中毒の原因病原体として病因物質別件数の第1位となった。アユなど淡水魚の生食による横川吸虫の感染やイノシシ肉を介した肺吸虫症も依然として発生が多い。急性胃アニサキス症は急性腹症として発症するため,内視鏡による確定診断が比較的容易であるが,肺吸虫症の場合は血清診断に基づいて治療を開始する。国内で運用されている抗体スクリーニング検査では,胸部症状があり本症を疑ってスクリーニングに供したケースの約3割が陽性となっており,現行の抗体スクリーニングシステムの診断的価値は高い。

 人獣共通感染症は寄生虫症に限らず,日本国内の感染症の発生動向を特徴づけるものである。ペットに限らず,野生動物からの感染対策が今日の大きな課題である。最近の重要情報として,これまで流行が北海道に限局されていたエキノコックス(多包条虫)が愛知県知多半島の野犬から2014(平成26)年に検出され,その後2018年にも同地区を中心に3頭の感染野犬が見つかり,多包条虫が本州にも定着したと結論されている。本州でのヒトへの感染は確認されていないが,鑑別診断として本章で解説されているエキノコックス症診断を念頭に臨床対応を行う必要がある。

 輸入感染症は,近年の訪日外国人観光客の増加や大規模国際的イベントの開催など,インバウンド渡航者の増加がリスクを高めることを想定しておく必要がある。また地球レベルでの気候変動が媒介生物の生態系に重大な影響を及

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