診療支援
診断

有機リン・サリン中毒
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Organophosphates/Sarin Poisoning
丸橋 孝昭
(北里大学病院救命救急・災害医療センター)

 専門機関での成分分析による毒物の同定には時間を要するため,診断では以下のポイントに重点をおく。

【1】詳細な病歴の確認

❶有機リン系農薬:ほとんどが自殺目的に経口摂取される。

❷サリン:神経剤・化学兵器としてテロで使用された過去があり,同様の症候を呈した多数傷病者が発生する。

【2】アセチルコリン過剰による症状:有機リン・サリンは,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)に結合し活性を阻害することでアセチルコリンが過剰となり,多彩かつ特徴的なコリン作動性症状を呈する。

症候の診かた

【1】神経筋接合部,自律神経や中枢神経終末で過剰となったアセチルコリンは,ムスカリン様作用,ニコチン様作用,中枢神経作用として以下のような症状を引き起こす。

❶ムスカリン様作用:縮瞳,徐脈,流涎,流涙,発汗,気管支分泌物の増加,気管支攣縮,悪心・嘔吐,尿・便失禁。

❷ニコチン様作用:散瞳,頻脈,高血圧,線維束れん縮。

❸中枢神経作用:頭痛,めまい,せん妄,昏睡,呼吸停止,けいれん発作。

【2】「徐脈・頻脈」「縮瞳・散瞳」のように,理論的には相反する症状が混在するが,実際によくみられる症状は,縮瞳,流涎,流涙,徐脈,気管分泌物増加,嘔吐,線維束攣縮,意識障害である。

検査所見とその読みかた

 症状に関与するのは神経節・神経筋接合部に存在するAChE活性であるが,その活性を直接測定することは難しく,血清コリンエステラーゼ(ChE)値を参考にする。血清ChE値は必ずしも重症度を反映しないことに留意する。

【1】血清ChE値の低下:感度・特異度ともに高く診断に有用である。

【2】基礎疾患に肝機能低下がない場合,正常下限値より50%未満を有意とする。多くの場合,曝露直後から1桁~0に近い値まで低下する。

確定診断の決め手

【1】自殺目的や誤飲により服用した場合は,製品そのものを確認し,有機リン成分が含まれていれば確定する。

【2】縮瞳や流

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