深頸部感染症は,感染が頸部間隙に波及して生じたリンパ節炎,蜂巣炎,膿瘍の総称である。比較的まれな疾患であり,抗菌薬の発達・普及とともにさらに減少傾向であるとはいえ,重篤化すると致死的となる。2003~2010年に,本疾患について詳細に記載された本邦の報告504件において,7件(1.4%)が死亡しており,このうち3件は縦隔膿瘍合併,3件は播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)併発,1件は多臓器不全発症であった。
診断のポイント
深頸部感染症は原発部位から隣接臓器,全身へと拡大するので,炎症の進展状態を検索することが重要である。
【1】感染原発部位の把握:頻度として扁桃,歯牙,咽頭,喉頭蓋,耳下腺,梨状陥凹瘻の順で多い。
【2】隣接臓器進展の把握:気道閉塞(声門浮腫・咽頭腫脹など),頸部間隙・縦隔を観察する。
【3】全身進展の把握
❶バイタルサインのチェックとともに,細菌感染の全身(血液,肺など)への影響を把握する。
❷血圧低下がある場合は敗血症〔あるいは全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)〕,DIC,劇症型A群溶血性レンサ球菌感染などを考慮する。
緊急対応の判断基準
【1】切開排膿や気管切開が必要になる場合
❶喉頭浮腫などの気道狭窄が認められる。
❷膿瘍におけるガス産生や嫌気性感染の関与,舌骨より尾側さらに縦隔への進展,広範囲・多房性の膿瘍形成,筋・筋膜壊死(この際は壊死部の除去術が必要)が認められる。
❸抗菌薬(さらにステロイド)を24時間投与しても病変の改善がない。なお,抗菌薬での膿瘍制御率は20%程度とされる。
【2】外科的処置とともに高酸素療法,抗毒素血清を投与する場合:ガス壊疽,特にクロストリジウム性ガス壊疽。
【3】人工呼吸器管理など集中治療